41 涙のプロポーズ
「今から皆の前で誓いたいと思う。その前に……」
クロリナラド殿下は、ゆっくりとルノアの前で膝をついた。
「カーナリアン王国、マクアリール公爵家ルノア嬢。成人したら、どうか私のお嫁さんになってほしい。
必ず幸せにする。竜皇国第二王子クロリナラドが、これから死が二人を分かつまで、誠実にあなたを守る。
どうか、私と白銀の番の誓いを結んでください」
右手を左胸に当て、クロリナラドはルノアの水色の瞳をまっすぐに見つめた。
ああ……。
まさか、こんなふうにプロポーズしてもらえるなんて思っていなかった。
ルノアの瞳から、堪えていた涙が溢れ出した。
何度も瞬きをしながら、それでもクロリナラドから目を逸らさず、ゆっくりと頷く。
「はい……。大人になるまで……お待たせしてしまって……ごめんなさい……。私の番になって……くださいませ……。私も……お願いします……。
お父様……伯父様……許してくださり……ありがとう……ございます……」
ラルフとヴァリアードは、目を閉じ、顔を少し上げた。
込み上げる涙を、必死に堪えている。
やがてクロリナラドはゆっくりと立ち上がると、ルノアをそっと抱きしめた。
「大丈夫だよ」
背中を優しく叩き、しばらくしてから静かに離れる。
そしてラルフとヴァリアードへ向かって、深く目礼した。
「ルノアの魔石も、この白銀の番の腕輪に入れて、お揃いのデザインにしようと思う。ルノア、どうだろうか?」
「はい……お願いします……」
ルノアは涙を拭いながら、しっかりとクロリナラドの紫の瞳を見つめた。
「うん。分かった。任せておくれ」
クロリナラドは、自分の左手首にある白銀の腕輪と、ルノアの魔石を二つ手に取った。
両手でそれらを包み込むように握り、目の高さまで掲げる。
そして静かに目を閉じた。
「クロリナラドとルノアは、運命の番!
白銀の腕輪よ。ルノアの魔石二つも加え、互いを護れ!
クロリナラドが命じる!」
その瞬間、白銀の腕輪が眩い光を放った。
光の中で腕輪がゆっくりと二つに分かれていく。
同時に、ルノアの魔石も二つに分かれ、もともと腕輪に嵌められていた紫の魔石も形を変えていった。
幻想的な光に包まれながら、二つの腕輪がゆっくりと形を整えていく。
そして――。
一つはクロリナラドの左手首へ。
もう一つはルノアの左手首へ。
まるで最初からそこにあったかのように、二人の腕にすっと収まった。
一度、腕輪は二人の手首へ溶け込むように消える。
そして次の瞬間には再び浮かび上がり、隙間なく手首へと収まった。
完成した腕輪には、大きなルノアの魔石が二つ、横並びに∞の形を思わせるように配置されていた。
その周囲を小さな紫色の魔石が取り囲み、さらに白銀の素材を一周するように、透明度の高い宝石質の紫魔石が二重に輝いている。
二人だけの、白銀の番の腕輪だった。
「ルノア、大丈夫かい? デザイン、気に入った?」
「は……い……」
ルノアは左手首をゆっくりと持ち上げ、白銀の腕輪をじっと見つめた。
左手首から伝わる、じんわりとした温かさ。
その温もりを感じた瞬間、また涙が溢れてきた。
ゆっくりと呼吸を整えながら、腕輪にそっと触れる。
「ありがとう……ございます……ラド様」
もう、これはただのレアアイテムなんかではなかった。
自分とクロリナラドを繋ぐ、大切な証だった。
クロリナラドは、そんなルノアを見つめながら嬉しそうに微笑んだ。
「ルノアの瞳が、私と同じ紫眼になったよ。
それに髪も銀髪から白銀になって、私と同じだ。
凄く……凄く嬉しいよ。
とても可愛い。本当にありがとう、ルノア」
そして少しだけ照れたように、言葉を続けた。
「僕だけの呼び方に変えてもいいかな……?」
ルノアが顔を上げる。
「ノア……。ノアと呼ばせてほしい」
「……はい」
ルノアは小さく頷いた。
クロリナラドは嬉しそうに笑うと、今度はラルフへ向き直った。
「白銀の番の契約が結ばれたので……ラルフ殿から『お義父上』と呼ばせてもらってもいいだろうか?」
ラルフは一瞬だけ目を閉じた。
そして、涙を堪えながら静かに頷く。
「はい。どうか……どうか、幸せに……。
そして安全に、静かに過ごせますように……。
お願いします」
クロリナラドは深く頭を下げた。
「頼むな……クロー」
その言葉に、クロリナラドは顔を上げる。
ルノアは、涙を耐えているラルフとヴァリアードの顔を、ゆっくりと見つめた。
二人とも泣いている。
けれど、その表情は悲しみではなかった。
娘を送り出す覚悟と、これから始まる新しい幸せを見守る、優しい笑顔だった。




