409 魔術師ヴァリアードの授業
新しいクラス編成となり、特級クラスの授業が始まろうとしていた。
この日、朝一番の授業を担当するのは、世界でもっとも名の知られた魔術師、ヴァリアードだった。
魔術の実力、魔力量、魔法陣、そして魔道具。
そのすべてにおいて世界最高峰に立つ魔術師であり、各国の魔術師たちが彼の研究を参考にしている。
特に魔防陣を研究する者たちの間では、ヴァリアードの理論を知らなければ話にならないとまで言われていた。
そんな魔術師が、今日から特級クラスの授業を担当する。
教室の中には、朝から独特の緊張感が漂っていた。
新しく決まった成績順位によって、席順も変わっている。
最前列には、成績上位の六人が並んでいた。
ルノア、リシュー、ルル。
そして、フォル、ジュスト、ライルズ。
以前とは違う席になった生徒も多く、教室には普段とは異なる空気が流れていた。
誰も雑談をする者はいない。
これから始まる授業がどのようなものになるのか、皆がそれぞれ考えていた。
やがて、教室の扉が開いた。
ヴァリアードが入ってくる。
「…………!!!」
その瞬間、教室が静まり返った。
誰もが知っている魔術師が、今、自分たちの目の前にいる。
しかし、ヴァリアードもすぐには口を開かなかった。
教壇へ向かいながら、前方に座る六人へ視線を向ける。
ルノア。リシュー。ルル。
フォル。ジュスト。ライルズ。
新しく決まった順位。
そして、この教室に集められた生徒たちの実力。
ヴァリアードは一人ずつの魔力を感じ取るように、しばらく生徒たちを見つめていた。
やがて、静かに息を吸う。
ゆっくりと吐き出してから、顔を上げた。
「はじめまして。魔術師のヴァリアードだ」
落ち着いた声が教室に響いた。
「今日が初めての授業だから、これから何をするのかと不安に思っている者もいるだろう」
何人かの生徒が、わずかに姿勢を正した。
「まず、成績上位十位までの者に伝える」
その言葉に、最前列の六人を含めた上位の生徒たちが顔を上げる。
「自分の周囲に結界を張っている者は、すべて解除しなさい」
教室の空気が変わった。
何人かの生徒が、驚いたように目を見開く。
「これから特級クラスでは、本来の魔力で授業を受けてもらう」
ヴァリアードは淡々と続けた。
「十一位以降の者は、結界を張る準備をしなさい」
後方の生徒たちが、一斉に魔力を動かし始める。
「これから私が行うことを見ながら、自分が張れる最高の結界を構築するんだ」
ヴァリアードの声に、冗談めいたものは一切なかった。
「ただし、危険だと判断した場合は、私が補助する」
生徒たちの表情が引き締まる。
「結界を張ることだけに集中してはいけない。
自分の魔力がどれだけ持つのかを考えながら、魔力を使いなさい」
ヴァリアードは、ゆっくりと教室を見渡した。
「覚えておいてほしい。誰かに張ってもらった結界の中で魔術を使い続けても、自分の魔力が増えるわけではない」
その言葉に、生徒たちは静かに耳を傾ける。
「自分の魔力を使い、自分で結界を維持する。
その中で魔術を使い続けることで、自分の魔力がどれだけあるのか、どこまで使えるのかを知ることができる」
ヴァリアードは、一度言葉を切った。
「そして、自分の限界を知ったら、そこからさらに鍛えるんだ」
その声には、確かな力があった。
生徒たちの視線が、ヴァリアードへ集まる。
「力のある者は、さらに上を目指す。まだ力が足りない者は、上位の者に追いつき、追い越すことを目指す。全員が自分自身の力を伸ばしていくんだ」
ヴァリアードは、教室全体を見渡した。
「この学院では、身分や生まれに関係なく、全員が平等に魔術を学ぶ。そして、誰もが自分の力で高みを目指す」
その言葉に、誰も口を挟まない。
「だから、上位の者に合わせた授業となる。
授業の水準を下げることはしない」
ヴァリアードの声が、静かに響く。
「上位十名の高い魔力に耐えられない者は、残念だが上級クラスへ移ってもらうことになる」
教室が静まり返った。
「これは誰かを落とすためではない」
ヴァリアードは、はっきりと言った。
「特級クラスにいる以上、同じ環境の中で学び、自分自身を鍛えてもらう。そのためのクラスだからだ」
そして、少しだけ表情を和らげる。
「特級クラスに残りたいのであれば、毎日、自分の魔力を増やす努力を続けなさい」
ヴァリアードの声が、教室に響く。
「今日だけ頑張ればいいわけではない。
明日も、その次の日も、自分自身を鍛えるんだ」
そして、教壇から一歩前へ出る。
「まず、自分の身は自分で守る」
その言葉を、一人ひとりに言い聞かせるように続けた。
「自分で結界を張り、自分で魔術を使い、自分の魔力を管理する。
それができて初めて、その先にある高みを目指すことができる」
ヴァリアードの瞳が鋭くなる。
「ここで学ぶ時間を、自分の力を伸ばす機会だと思いなさい」
そして――。
ヴァリアードは、わずかに口元を上げた。
「さあ……始めよう」
次の瞬間。
ヴァリアードから、膨大な魔力が放たれた。
空気が一気に重くなる。
教室にいた生徒たちの表情が変わった。
これまで感じたことのない圧力。
世界最高と呼ばれる魔術師の魔力が、今、目の前にある。
「――十位までの者、結界を解除しろ!」
ヴァリアードの声が、教室全体に響き渡る。
「――十一位からの者、自分を守る結界を張れ!」
その瞬間。
特級クラス、最初の授業が始まった。




