405 魔道具人形とこれから
三人はフォル、ジュスト、サンセールとともに卒業論文を提出した。
提出を終えた者から順に論文の審査が行われ、その後、面談を受けることになっている。
リシューは、ふとルノアを見た。
「……そういえば、ルノアはもう卒業論文の面談が終わっているよね?」
「うん」
ルノアが頷く。
「どうして?」
不思議そうに尋ねると、ルノアは少し困ったように笑った。
「卒業論文を書き終わってから気づいたんだけど……私の論文、悪用されると危険な内容だったみたいなの」
「悪用?」
リシューが目を丸くする。
「うん。毎年、飛び級で卒業する人の卒業論文は、一定期間公開されることになっているでしょう?」
「うん。そう書いてあったね」
ルルも頷く。
「でも、私の論文は内容に問題があると判断されて……公開しないことになったの。だから、詳しいことは話せないんだ」
ルノアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい」
「そうだったんだ……」
リシューは納得したように頷いた。
すると、ルルがくすっと笑う。
「優秀なルノアでも、そんなことがあるんだね」
「私も、本当に書くことに夢中になっていて……」
ルノアは少し恥ずかしそうに笑った。
「書き終わるまで、問題があることに気づかなかったの」
「そういえば、合格するまでは、お互いの論文について話すのも駄目だったよね?」
ルルがラムを見る。
「はい」
ラムが答えた。
「論文の盗用を防ぐためです。以前、他者の論文を盗用したにもかかわらず、自分のものだと主張する者がいたそうです。その対策として、合否が決まるまでは論文の内容について話さない決まりになったと聞いています」
「なるほど……」
リシューは感心したように頷いた。
学院には、自分たちがまだ知らない決まりがたくさんある。
「そうだ」
ルノアが何かを思い出したように、二人を見る。
「二人は、卒業するときにマムやラムを購入できることは知ってる?」
「うん。見たよ」
ルルが頷く。
「私も知ってる」
リシューも答えた。
「ヨーリアン帝国の魔術学院は、授業料も無料だけど……いろいろな仕組みに支えられているんだね。驚いた」
リシューは少し考えてから、正直な気持ちを口にした。
「……でも、私はそんな大金を持たされていないから、購入するのは難しいかな」
そして、少し困ったように続ける。
「それに、手入れも自分でしなければならないのでしょう? そう考えると、精霊魔法だけではできることに限界があるんだって、改めて感じたの」
「私も同じかな」
ルルが苦笑する。
「私にはいつも蛇族の隠密がいてくれるし、お金も国庫から出ているから。もちろん税金で賄われているものだから、好きに使えるわけじゃないけどね。
身の回りのことはお願いできるけど、あの高性能な魔法人形の整備まで自分で責任を持てるかと言われると……自信がないの」
「そうなんだ」
二人の話を聞きながら、ルノアは少し考えた。
そして、二人に向かって話し始める。
「実はね。ワム、ラム、マムは、もう三十年くらい学院で働いているんだって」
「三十年……」
リシューが驚く。
「うん。それで、二年後には破棄される予定だと聞いたの」
ルノアは少し寂しそうに笑った。
「だから私は、三体とも購入できるように、今、魔法契約書を作ってもらっているの」
「三体とも?」
ルルが目を丸くする。
「うん。最後まで一緒にいたいと思って」
ルノアは二人を見つめ、柔らかく笑った。
「でも、もしリシューやルルが必要になったら、いつでも言ってね」
「え?」
「購入するときは、今使っている人が優先されるんだって」
「でも……」
リシューが戸惑う。
「遠慮しなくていいよ」
ルノアは穏やかに笑った。
「欲しいと思ったときは、言ってね」
ルルとリシューは顔を見合わせた。
「「……ありがとう、ルノア」」
「うん」
三人の間に、穏やかな笑顔が広がった。
しばらくすると、ルルが今日一日のことを思い出したように口を開いた。
「そういえば、今日は入学式のあと、すぐに授業が始まって、確認試験もあったでしょう?」
ルルは少し肩をすくめる。
「勉強はしっかりしてきたつもりだけど……やっぱり、すごく緊張した」
「私も合格したけど、結果が出るまでは少し不安だったかな」
リシューが小さく笑う。
「大丈夫だと思うよ」
ルノアが穏やかに答えた。
「私たち、ちゃんと勉強してきたんだから」
「そうだよね」
リシューも頷く。
「明日には正式なクラスが決まるって話していたけど……また変わるのかな?」
「試験の結果で決まるなら、変わるかもしれないね」
「そっか……」
ルルが少し考える。
「魔法陣を十五個も描くのが難しい人がいることも……少し問題だよね」
「うん。明日になってみないと、まだ分からないね」
ルノアが笑う。
「どのクラスになっても、一緒に勉強できるよ」
「私も、二人と一緒なら安心する」
リシューが嬉しそうに笑った。
「うん。もう何が起きても、驚かないことにする」
三人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
やがて、リシューが立ち上がる。
「そろそろ部屋に戻ろうか。あとで夜ご飯を食べに行こう」
「うん!」
ルノアとルルも頷いた。
三人はそれぞれの部屋へ戻るため、部屋を後にした。




