403 リシューの相談
三人が部屋の中へ入ると、リシューの後ろから妖精や精霊たちも続いて入ってきた。
「お邪魔します!」
「今日はここで遊ぶぞ!」
「ルノア、何か面白いものない?」
「みんな、元気だね」ルノアが笑う。
ルルは椅子に座り、リシューもその隣に腰を下ろした。
しばらく学院のことを話していると、リシューがふと思い出したように口を開いた。
「……あの」
「なに?」
「少し、相談してもいい?」
「もちろん」
リシューは膝の上で手を握った。
「私……マムの設定が、よく分からなくて」
「設定?」
「うん。学院に来る前は、何でも周りの人がしてくれていたから……」
リシューは少しずつ言葉を続けた。
「起きる時間も、着替えることも、勉強の時間も、次に何をするのかも、いつも誰かが教えてくれていたの。
だから学院に来て、自分で決めることが増えたけど……何をマムにお願いすればいいのかも分からなくて……」
最後の言葉は、少し小さくなった。
「何もできない自分が、恥ずかしいんだけど……」
「そんなこと、恥ずかしくないよ」
ルノアはすぐに答えた。
「今まで誰かがしてくれていたことを、急に自分で考えるのって難しいもの。必要なことを、一つずつ覚えていけばいいよ」
「……うん」
「よかったら、一緒に考えよう」
ルノアが机の上に紙を置いた。
「まずは、学院生活で困っていることを書いてみようか」
「うん」
「例えば、授業の時間とか教室の場所、必要な持ち物を知らせてもらうこと。寮へ戻る時間を教えてもらうこともできるよ」
「そうなんだ……」
「それから、危険があったときに知らせてもらったり、部屋への入室を管理してもらったりもできるの」
ルルも会話に加わる。
「記録もできる?」
「うん。何か問題が起きたときに、あとから確認できるように記録を残してもらうこともできるよ。
悪意ある噂とか……勝手に話されてもちょっと心配だから」
「なるほど……」
リシューはマムを見る。
「他にもあるの?」
「あるよ」
ルノアは少し考えてから答えた。
「知らないうちに学則に違反しそうになったとき、前もって教えてもらうこともできるよ。
何が問題なのか分かれば、うっかり違反することも減るから」
「それ、いい!」
リシューは嬉しそうに頷いた。
「でも、マムが何でも決めてくれるわけじゃないよ」
「えっ?」
「マムは、お願いされたことを手伝ったり、決められた条件に当てはまることを知らせたりするものなの。
何が正しいかを勝手に決めたり、誰かを罰したりはできないよ」
「じゃあ、最後に決めるのは私?」
「うん。どうするかを決めるのはリシューだよ」
「分かった」
リシューは少し考えたあと、マムの前に立った。
「マム」
「はい。リシュー」
「学院生活で困らないように、授業の時間と教室の場所、必要な持ち物を教えてほしいの。
忘れ物がないか私に確認で聞いてほしいです。
それから、寮へ戻る時間も知らせてください」
「承知しました」
「危険なことや、不審な人が部屋に入ろうとしたときも教えてください。
何か問題が起きたら、あとで確認できるように記録も残してほしいです」
「承知しました」
リシューは少し考えてから、続けた。
「それと……私が知らないうちに学則に違反しそうになったら、何がいけないのか前もって教えてください」
「承知しました」
「私に関する悪意のある噂とか、学院生活に関係する問題があったら、必要に応じて確認してほしいです。
学則に関係することなら学院にも知らせて、私にも教えてください」
「承知しました」マムが静かに頷く。
リシューは少し緊張した顔でルノアを見る。
「……これでいいかな?」
「うん。ちゃんと自分で考えてお願いできたね」
「本当?」
「うん」ルノアが笑う。
「これから使ってみて、足りないことがあったら、そのときにまた追加すればいいよ」
「そっか……」
リシューの表情が、少しずつ明るくなっていく。
「じゃあ、最初から全部できなくてもいいんだね」
「もちろん。私だって、最初から全部分かってたわけじゃないよ。
ルノアに聞いて、ラムに何をお願いできるのかも、最初は知らなかったの。
私も、本当ルノアのおかげなんだ。」
「そうなんだ……」
リシューは安心したように笑った。
すると、部屋の中にいた妖精たちも一斉に声を上げた。
「俺たちも手伝うぞ!」
「リシューが困らないようにしよう!」
「明日の教室も忘れないようにしないとな!」
「でも、お前たちだけじゃ教室まで案内できないだろ」
「……それはそうだな」
妖精たちが顔を見合わせる。
三人は思わず笑った。
リシューは胸の奥が温かくなるのを感じていた。
分からないことは、誰かに聞いていい。
一人で全部できなくてもいい。
「……ルノア」
「なに?」
「相談してよかった」
「私も、相談してくれて嬉しいよ」
ルノアが微笑む。
リシューはもう一度マムを見る。
「よろしくお願いします。マム!」
「はい。リシュー」
マムの返事は、いつもと変わらず穏やかだった。
けれどリシューには、その声がいつもより少しだけ心強く聞こえた。




