402 リシュー はじめての出会い
入寮したその夜、リシューはなかなか眠れなかった。
明日から始まる学院生活を思うと、楽しみな気持ちと少しの不安で胸が落ち着かない。
「明日……大丈夫かな……」
枕元の妖精たちが笑う。
「大丈夫だよ!」
「なんとかなるって!」
その声に励まされながら、リシューはゆっくり目を閉じた。
翌朝。
少し眠そうな顔で身支度を整えたリシューは、妖精や精霊たちとともに入学式へ向かった。
壇上にはヨーリアン帝国の帝王様と、学院の教師たちが並んでいる。
生徒たちはそれぞれ決められた席に座り、静かに式を見守っていた。
成績順に並べられた席の最前列には、三つの席があった。
推薦による入学試験で満点を取った生徒だった。
リシューは二人を、そっと見た。
白銀の髪に紫色の瞳を持つ少女。
そして、ふわふわとした白と銀色の毛並みと可愛らしい姿をした少女。
二人とも、リシューを見ても驚いたり、恐れたりする様子がない。
「……初めまして。リシューです」
「初めまして。ルノアです」
「ルルです。よろしくお願いします」
その瞬間、リシューの周囲にいた妖精や精霊たちが、二人へ近づいていった。
「この二人、いい奴じゃん!」
「俺たちを怖がってないぞ!」
「何かしたら許さねぇからな!」
小さな妖精たちが、二人の肩や頭の上へ次々と乗っていく。
「……まあ」
ルノアが小さく目を見開いた。
それを見た別の妖精が、今度はルルの肩へ飛んでいく。
「わあ……可愛い」
ルルは嬉しそうに妖精を見つめた。
リシューは思わず二人を見た。
「……いつもこうなんです」
「仲がいいのですね」ルノアが微笑む。
すると、ルノアの肩にいた妖精がリシューのもとへ戻り、続いてルルの肩にいた妖精も飛んできた。
妖精たちは三人の間を自由に行き来しながら、それぞれの肩や頭にちょこんと座っている。
ルノアとルルは顔を見合わせた。
その様子に、リシューも自然と笑みをこぼす。
「妖精様たちとも、仲良くなれそうです」
ルルが嬉しそうに言う。
「そうですね」リシューも頷いた。
胸の奥にあった緊張が、いつの間にか消えていた。
ルルは驚くどころか、嬉しそうに笑った。
今まで、妖精や精霊を見ると、人々は驚いたり、距離を取ったりしていた。
けれど、この二人は違う。
怖がっていない。
敬いすぎてもいない。
ただ、可愛いものを見るように笑っている。
ふとルルの尻尾を見ると、ふわふわの毛が嬉しそうに揺れていた。
その光景を見た瞬間、リシューの胸の奥が温かくなった。
「……ありがとう」
小さく呟く。リシューは笑った。初めてだった。
自分を「西の精霊王様の愛し子様」ではなく、一人の生徒として見てくれる人に出会ったのは。
全員が寮へ戻る。
リシューの部屋は、ルノアの隣だった。
さらに、その隣にはルルの部屋がある。
妖精たちは大喜びだった。
「隣がルノアだ!」
「ルルもすぐそこじゃん!」
「毎日遊べるぞ!」
リシューはその声を聞きながら、少しだけ笑った。
けれど、どうしても自分から声をかける勇気が出ない。
「……友達に、なりたいな」
その言葉を聞いた妖精が、リシューの肩に乗って小さな拳を握った。
「行けよ」
「友達になりたいんだろ?」
「だったら行け!」
「ぐずぐずすんな!」
「……うん」
リシューは勇気を出して、隣のルルの部屋へ向かった。
コンコン。
扉を叩くと、すぐに魔道具人形が顔を出した。
そのうしろから
「リシュー? どうしたの?」
リシューは少し緊張しながら口を開いた。
「一緒に、ルノアのところでおしゃべりがしたいの」
ルルは嬉しそうに笑った。
「うん。一緒に行きましょう」
二人でルノアの部屋へ向かう。
コンコン。
扉が開き、魔道具人形とルノアが笑顔で二人を迎えた。
「どうぞ。リシュー、ルル。どうしました?」
リシューは少しだけ俯き、それから顔を上げた。
「……一緒に、お話ししてもいい?」
「もちろんです」
その言葉を聞いた瞬間、リシューの胸が温かくなった。
西の精霊王様が言っていた。
学院へ行けば、きっと友達ができる。
あの言葉は、本当だったのかもしれない。
リシューは小さく笑った。
この二人と、友達になりたい。
守られるだけだった少女が、自分から誰かとの絆を求めて踏み出した、初めての一歩だった。




