399 マイルズの未来
マイルズにとって、未来とは「あとどれだけ生きられるか」だけだった。
身体が弱く、魔力に苦しみ続けてきたマイルズは、皆と同じ場所で授業を受け、同じように魔法を学び、友人と笑い合う……そんな当たり前の未来さえ、自分には縁のないものだと思っていた。
けれど、魔力過多を治すことができるのなら、諦めていた願いも叶えられる。
治療には時間が必要だが、
その先には今まで想像することすらできなかった未来が待っている。
学びたいと思えば、学ぶことができる。
皆と同じ場所に立ち、自分の力で魔術式を研究することもできる。
そして、何年先であっても、自分で選んだ道を歩いていける。
それはマイルズにとって、生きることそのものと同じくらい大きな希望だった。
その様子を見ながら、クロリナラドが静かに口を開いた。
「イヤーカフを竜神様がノアに託した。
今のヨーリアン帝国で、誰に作り、誰に渡すのか。
その判断もノアに任された。」
クロリナラドは一度、グランディスへ視線を向けた。
「現状では、グラードの息子たちに渡すことはできない。しかし、これからの学びの中で、古竜種が長い時を生きる意味と、その力に伴う責任を理解する未来を、竜神様は待っているのだと思う」
それ以上、細かな仕組みを説明することはなかった。
大切なのは、イヤーカフそのものではない。
竜神様が求めているのは、世界の理を理解し、その安定を守ろうとする者たちを支えることだった。
竜皇国の国王リアムも、ヨーリアン帝国の帝王グランディスも、世界を守る責任を持つ竜人として、その意味を理解している。そして、『運命の番』が互いの人生にとってどれほど大切な存在なのかも知っている。
だからこそ、それぞれの国が自らの役割を果たし、必要以上に他国へ干渉せず、互いに協力することが重要なのだ。
そのためにも、ヨーリアン帝国の魔術学院には大きな役割がある。
次の世代に正しい知識を教え、身分や種族だけで相手を判断せず、同じ世界に生きる隣人として互いを尊重することを伝えていく。
王族だけで世界を守るのではない。
立場や種族に関係なく、一人ひとりが自分の役割を考え、問題が起きたときには皆で解決する。
そのための仲間を育てていくことが必要なのだ。
特に、古竜種のように長い時を生き、大きな力を持つ者には、それだけ大きな責任がある。
その力を自分たちだけのために使えば、いずれ世界との歪みが生まれる。
長い世界の歴史の中で、強大な力を持つ者たちによって引き起こされた危機は、決して一度や二度ではなかった。
だからこそ、次の世代への教育が重要なのだ。
長く生きる者が、その経験と責任を次の世代へ正しく伝えていかなければならない。
今回のイヤーカフも、その未来へつなぐための証だった。
マイルズが生きる未来も、学ぶ未来も、そしてヨーリアン帝国の次の世代が歩む未来も、すべては世界の未来へとつながっている。
その話を聞いていた福が、胸を張った。
「福も世界を守る!」
クロリナラドは微笑みながら答えた。
「福様。まずはノアを守ってください」
「はい! ルノアを守って、世界も守る!」
そして少し考えたあと、当然のように付け加えた。
「でも、世界を守るなら、おやつは必要だよ!」
「はい。世界を守る者には、休息も必要ですね。」
「おやつも!」
「もちろん、それも必要です。」
張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。
これからルノアは、マイルズと定期的に面会する。
身体と魔力の状態を確認しながら、少しずつ治療を進めていく。
もう、マイルズは自分の人生を諦める必要はない。
生きることも、学ぶことも、未来を選ぶこともできる。
その事実を胸に、マイルズは初めて、自分の未来を自分自身のものとして見つめていた。




