386 サイルズのやり直し
サイルズの目が大きく見開かれる。
「……国王……」
「そうだ」レオンの表情から笑みが消える。
「サイルズ。よく聞け」静かな声だった。
「俺は、お前の国の者じゃない。リオンブラン王国の国王だ。それでも、言わなきゃならないことがある」
サイルズは黙ってレオンを見る。
「誰だって、生きていて嫌な思いなんてしたくないだろ?」
「……はい」
「俺に馬鹿にされて、今のお前は気分がいいか?」
「……いいえ」
「そうだろ」レオンは頷いた。
「なら、自分がされて嫌なことは、他人にしちゃ駄目だ。それは妖精様や精霊様、獣人、竜人、エルフ、人族、王族、平民……誰であっても同じだ。同じ世界に生きる者。誰もが平和で嫌な思いをせず、生きる権利が平等にあるんだ。」
サイルズは俯いた。
「特に、お前が誇りにしている古竜種は長生きだろ?」
「……はい」頷く。
「だったら、長く生きる者として正しく生きろ」
レオンは真っ直ぐにサイルズを見つめた。
「力を持つ者として、弱い者を守れる、帝王様のような尊敬される竜人になれ」
そして、グラードを見る。
「お前の父親、格好いいだろ?」
サイルズが顔を上げる。
「魔術相として帝国を支えるために努力してる。
王太子になった兄を支えて、国を守るために働いてる。そういう姿を見てきただろ?」
グラードは何も言わず、息子を見つめていた。
「サイルズ。今のお前のままで、本当に将来どうするつもりだ?」
レオンの声が静かに響く。
「学院を途中で退学したら、ヨーリアン帝国の王城で働くことは難しくなる。どこかの国へ婿入りするにしても、ヨーリアン帝国魔術学院の卒業資格は必要になる」
サイルズの顔から血の気が引いていく。
「貴族として生きていくにも、必要な学びがある。
爵位を継ぐ者も、婿入りする者も、領地経営学科を修めて卒業しなければならないんだぞ」
「……」
「途中退学したら、二度と魔術学院の入学試験は受けられない」
レオンは、はっきりと言った。
「王族だから特別、なんてことはない。学院の規則は全員同じだ。卒業資格は必要になる」
サイルズは唇を噛んだ。
「お前は、この先どうやって生きていくつもりなんだ?」
答えはなかった。
「ちゃんと考えろ」レオンは少しだけ声を和らげた。
「なんなら、リオンブラン王国へ留学に来るか?」
サイルズが顔を上げる。
「リオンブラン王国の魔術学園で、一年からやり直してもいいぞ。魔力を増やすことは、大変だけど特化した学科がある。
魔道具もあるけど、獣人でも諦めす努力を続けてきたから、俺もまだ毎年増えてるぞ。
負けず嫌いだからな!
お前のことを知らない奴らの中で、獣人が暮らす国で、魔道具に頼らない、生活してみろよ。ちゃんと増えるぞ。」
レオンは真剣な顔で続ける。
「古竜種はな、未だに狙われるんだ。
サイルズが誘拐されたら、高額な素材として扱われる。自分の身を自分だけで守れるだけの力は絶対に必要なんだ。
だからこそ、守るための魔道具がお前についていたんだろう?」
レオンはサイルズを見る。
「明日からの学院も、魔道具なしじゃ授業についていけないだろ?」
サイルズは黙って頷いた。
「今日、魔法陣十五個の試験があっただろ?」
「……はい」
「合格したか?」
サイルズは答えられない。
その沈黙に、グラードが息を呑んだ。
「……まさか」
グラードが息子を見る。
「不合格だったのか?」
サイルズは小さく頷いた。
「はい……不合格でした。すみませんでした」
グラードは目を閉じ、深く息を吐いた。
グランディスも、しばらく黙ってサイルズを見つめていた。
やがて、静かに口を開く。
「サイルズ」
「……はい」
「お前は、どうしたい?」
グランディスの声は静かだった。
「今ここで、自分の意思を言いなさい」
サイルズは俯いたまま、しばらく黙っていた。
やがて、震える声で話し始める。
「……申し訳ありません」顔を上げる。
「魔道具がなければ、明日からの授業はついていけません。」
拳を握る。
「……本当に恥ずかしいです」
それでも、逃げずに続けた。
「卒業できると……思っていました。ヨーリアン帝国の王族なら、大丈夫なんだと……勝手に安心していました」
そして、ゆっくりと頭を下げる。
「魔道具なしで、自分の力で学び直したいです」
声は震えていた。
「もう一度、最初からやり直したいです。弟ヘイルズも俺と同じ考えです。」
執務室が静まり返った。




