384 レオン国王の問いかけ 1
レオンは執務室の椅子に深く腰を下ろすと、すぐにグランディスへ視線を向けた。
「赤紙が届く時期だろ? だから今、来たんだ」
そして、グラードを見る。
「おお……顔色の悪いグラードがいるってことは、期待通りサイルズが赤紙を出したんだな?」
「……!何で名前も分かるんだ?公表していないのに……その言い方もやめてくれ」
グラードが疲れた声で答える。
「まあ、いいじゃないか。サイルズを一度、俺に会わせてくれ。今すぐに」
「今、なのか?」王太子のグレイヴが尋ねる。
「そう、今だ。徹底的に獣人を侮るなんて、一度で懲りるだろ?」
レオンはグレイヴ、グラード、レイへ視線を向ける。
「そうだっただろ? グレイヴ、グラード、レイ」
「……まあ、そうだな」
「……否定できないな」
「俺まで巻き込むなよ」近衛隊長のレイが言い、三人は苦笑した。
グレイヴ、グラード、レイは、学院時代からレオンと面識があった。
学年こそ違ったが、実力重視の魔術実戦授業では学年を問わず参加するため、味方になったり敵になったりしながら、何度も戦ってきた。
そして、この三人も例外なく、最初にレオンとの実戦で完全な敗北を味わっている。
「それにしても、久しぶりだな。おお……ちゃんと身体を維持してるじゃないか。俺も頑張ってるぞ!」
「お前は昔から、妙なところだけ張り合うよな」グレイヴが呆れたように笑う。
「身体は大事だからな」
「はいはい」グラードも苦笑した。
しばらく昔話をするような穏やかな空気が流れていたが、やがてグランディスが咳払いをする。
「レオン。サイルズのことだが……」
「分かってる」レオンの表情が少し変わった。
「だから、俺が来たんだ」
グラードが魔空間から一枚の書類を取り出す。
「……その前に……」
グランディスが書類へ目を向けた。
「これは?」
「魔法契約書です。遅くなりましたが、私の番の実家について、例外なくしっかりと罪を裁いてください。確認の時間をいただき、ありがとうございました」
グラードは苦しそうに答えた。
「もう準備していたんだな」グランディスが書類を見ながら言う。
「はい。ご迷惑をおかけしました。しっかりと不正を確認し、番とも話し合って決めました。今の環境が良くないと理解しました。」
グラードは深く息を吐いた。
「今日、学院から連絡が来て……俺たち夫婦だけでは、サイルズを正しく導けない」
そして、頭を下げる。
「番のサリーと決断しました。ご迷惑をおかけします。よろしくお願いします」
グラードは深々と全員に頭を下げた。
「分かった」レオンは静かに頷いた。
「じゃあ、サイルズを呼ぼう」
グレイヴが頷き、すぐにサイルズを呼び出すよう命じた。
ほどなくして、サイルズが執務室へ入ってくる。
そこにレオンがいることには気づいたものの、まさかリオンブラン王国の国王だとは知らない。
サイルズはレオンの尻毛を見るなり、眉をひそめた。
そして、父親のグラードを見る。
「帝王様、父上、お呼びと伺い、参りました」
頭を下げたサイルズは、小さく呟いた。
「……なぜ執務室に獣人がいるんだ?」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
レオンは何も言わなかった。
ただ、サイルズをじっと見つめた。
グランディスがため息をついた。
「サイルズ。なぜ呼ばれたのか分かっていないのか?」
「……」
サイルズは不貞腐れたように答えた。
「学院で少し教師に言い返しました。どうして父上まで呼ばれるんですか?」
「少し、だと?」グラードの声が低くなる。
「教師が大げさに騒いだだけです。」サイルズは面倒そうに肩をすくめた。
「私は間違ったことを言ったつもりはない。教師だからって偉そうにするほうが悪い」
「サイルズ!」グラードが鋭く遮った。
「教師への暴言で、すでに四十点も加点されているんだぞ!」
「……四十点?」
「そうだ。あと十点で、お前は出席停止になる」
サイルズの表情がわずかに変わる。
「……それが何……」
「何だと?」グラードは信じられないという顔でサイルズを見る。
「学院で学ぶことよりも、自分の感情を優先して教師に暴言を吐く。注意されても反省せず、今もその態度だ。それで、あと十点で出席停止になることがお前にとって重要なことではないのか?」
「……」
「出席停止になれば、それだけ授業を受けられなくなる。繰り返せば、学院にいられなくなる可能性だってある。それでも、お前は『それが何だ』で済ませるのか?」
サイルズは顔を背けた。
「……別に、私は悪くない」
その言葉に、グラードは目を閉じ、深く息を吐いた。
「……私たち夫婦だけでは、無理です。」
「父上?」
グラードはサイルズを見る。
そこには、怒りよりも深い失望が滲んでいた。
「今日、学院から連絡を受けた時、私はお前を信じたかった。何か事情があったのだと思いたかった」
グラードは静かに続ける。
「だが、今のお前を見て分かった。お前は、自分が何をしているのか分かっていない」
サイルズは何も答えなかった。
その間も、レオンは一言も口を挟まず、サイルズを見つめていた。
グランディスもまた、厳しい表情でサイルズを見ている。
そして、レオンがゆっくりと口を開いた。
「……なるほどな」
その声に、サイルズが顔を上げる。
「話は聞いた。だが、俺からも一つ聞かせてもらおう」
レオンは静かに立ち上がった。
「お前は、自分がされて嫌なことを、他人にしてはいけないと思わないのか?」
サイルズは答えなかった。
ただ、不満そうにレオンを見返していた。




