381 魔道具人形購入
ルノアは、部屋に戻り、明日の課題を全て終了させてから、魔道具人形の説明書を、もう一度詳しく読み直していた。
ワムと初めて対面したとき、ルノアはワムからヴァリー伯父様の魔力を強く感じた。
そこで「透視」の魔術を使って調べてみると、ワムの要所には、ヴァリー伯父様の魔力で描かれた特殊な魔法陣が組み込まれていた。
その魔法陣は、使用者の魔力量によって、使える機能が大きく変わる。
ヴァリー伯父様が開発した最新の特殊魔術によって、映像や音声の記録、追跡、魔道具人形同士の連携や情報共有まで可能になっていた。
十分な魔力を供給すれば、まるで自分の頭脳のように働き、従事者としてさまざまな仕事を任せることもできる。
それほど高性能であるにもかかわらず、説明書には、この最新の特殊魔術について詳しい説明が追記されていない。
さらに最後の章には、卒業時に自分が担当した魔道具人形を購入できることが記されていた。
「なるほど……」
ルノアは説明書を閉じた。
ヨーリアン帝国魔術学院では、授業料を含め、すべて無料で学ぶことができる。
その一方で、生徒たちは三年間の学院生活を通して魔道具人形の便利さを知り、卒業時には、使い慣れた魔道具人形をそのまま購入できる。
高性能な機種は高額だが、学院で使用した年数に応じて値引きされる仕組みになっている。
無料で教育を受けさせながら、三年間かけて商品の価値を実感してもらう。
商業的にも、よく考えられた仕組みだった。
「ワム。少し質問しても大丈夫ですか?」
「はい。どうぞ」
「ワムは、魔道具人形として何年目ですか?」
「私とラム、そして、マムは、二年後に廃棄予定です」
「二年後……?」
「はい。私たちは最も高機能な型ですが、魔力消費が大きく、価格も高いため、三十年間買い手がつきませんでした。
現在のヨーリアン帝国では、名前を持たない新型の従事型魔道具人形が人気です。平民の方でも購入できる価格と、最小魔力量に抑えられております」
「そうでしたか……。では、三十年の間に、機能の見直しはされましたか?最後はいつ頃ですか?」
「制作者様はすでに亡くなられております。そのため、私たちを管理できる方がおらず、廃棄される予定だったのです。
ですが、八ヶ月ほど前に、魔術師のヴァリアード様が私たちを最新型へ改修してくださいました」
「教えてくれてありがとう」ルノアは少し考えてから、ワムを見た。
「私が卒業するとき、ワムを購入したいです」
「……えっ?」ワムの動きが、ぴたりと止まった。
「二年の間に、ラムとマムに購入希望者がいなかった場合は、三体とも私が引き取れるように、契約書を作成してもらえますか?」
「入学したばかりでございますが……よろしいのですか?」
「はい。二年後には廃棄予定と聞きましたから」ルノアは当たり前のことのように頷いた。
「代金は、魔法契約書と同時に全額お支払いします。
もし二年の間にラムやマムを希望する方が現れた場合は、その方へお譲りして大丈夫です。」
「承知いたしました。正式な契約について、魔道具管理部へ確認いたします」
「お願いします。廃棄されることがないように、正式な魔法契約書を作ってください。私が確認した後、実家へ送ります。必要な手続きがあるなら、学院にも確認をお願いします」
「承知いたしました」ワムは深く頭を下げた。
「それと、今、魔力を供給しても大丈夫ですか?」ルノアはワムを見つめた。
「少し魔力の減りが早いように感じます。」
「問題ございません。現在の使用状況は通常の範囲内です」
「私が設定を増やしたことで、魔力の消費量が増える可能性はありますか?」
「はい。設定内容によっては、通常より消費が増える可能性がございます」
「それなら、他の方にも同じ設定を勧めるなら、魔力消費について確認しておいたほうがいいですね」
「承知いたしました。現在の設定による魔力消費量と、安全な魔力供給について、魔道具管理部へ確認いたします」ワムが一礼する。
「お願いします」ルノアは再び説明書へ目を落とした。
学院では、世界中から集まった生徒たちが三年間、魔道具人形と生活する。
その間、魔道具人形は主人の仕事を手伝い、会話を交わし、日々の行動を共にする。
高性能な機種なら、映像や音声を記録し、他の魔道具人形と情報を共有することさえできる。
つまり、本人が意識していなくても、三年間の学院生活を通して、その人物の能力や性格、得意、不得意、行動の傾向などが情報として、蓄積されていく可能性がある。
「……便利、というだけではないんですね」ルノアは小さく呟いた。
無料で教育を受けられる学院。
そこで生徒たちは高度な教育と、便利な魔道具人形を与えられる。
そして卒業後には、その便利さを知った人々が魔道具人形を購入する。
その仕組みの裏側で、世界中から集まった人材の情報の全てを魔道具人形を通して蓄積されているのだとしたら……
ルノアは、ヨーリアン帝国の魔道具社会が持つ、便利さとは別の一面を感じていた。
「……怖いですね」ルノアはそう呟き、説明書を静かに閉じた。




