38 田中祐希 タナカユキです
「ありがとう。嬉しいけれど……本当にいいのかい? ルノア。それと、前の名前も教えてくれないか?」
「田中祐希です。姓がタナカ、名がユキです。私の前の名前も教えてください」
クロリナラドは目を瞬かせ、驚いたような顔をした。
「戦争で跡取りや親族の多くが亡くなり、爵位も国に返してしまったから、今はもう存在しない家だけれど……東大陸にある東洋ランズ王国。そのタナカ公爵家の長女がユキだった」
「……え?」
「驚いたよ。今、君から同じ名前を聞いて……」
ルノアは驚くクロリナラドを見つめた。
すると、竜神様の声が聞こえてきた。
『クロリナラド。竜神様が突然だったから、龍神信仰のある国の神にしか願うことができなかったと言っている。心と身体を癒さなければ、元の姿に戻すこともできなかったそうだ』
『承諾してくれてありがとう、とも言っている。
ユキ、そしてルノア。竜神様は、自分が約束を守ることができて嬉しいと言っている』
「……そうだったのですね」
私は、前に暮らしていた場所のことを思い出した。
水不足になると、昔は雨乞いの儀式を行っていた地域だった。
今ではさまざまな治水対策が進み、その問題も解決されていたけれど、昔から地域を守ってくれていると信じられていた場所には、両親と一緒に初詣へ行ったり、夏祭りの縁日に出かけたりもした。
懐かしい思い出が、次々と蘇ってくる。
「では……すぐに始めても大丈夫かな? ヴァリアードとお父上を呼ぼうか?」
「はい。お願いします」
少しだけ考えてから、ルノアは続けた。
「先のことはまだ分かりません。でも、転生のことは今は話さないでおきます。お二人を呼んでくださいませ」
「分かった」
クロリナラドに頼まれ、ヴァリアードがラルフを呼びに行った。
やがて二人が部屋へ入ってくると、ルノアは二人の前に立った。
「お父様。伯父様」
二人がルノアを見る。
「私は、クロリナラド殿下と婚約いたします」
ルノアはまっすぐに二人を見つめた。
「お互いの精神と身体を守るためにも、白銀の番の誓いを、お二人の前で交わしたいと思っています。
どうか、見届けていただけませんか?」
すると、福ちゃんもルノアの隣へ飛んできた。
「お父様、ヴァリアード。竜神様がルノアにお願いしたの」
福ちゃんは二人を見上げながら説明した。
「お互いに白銀の番の誓いを交わせば、異性からの魔法攻撃や呪い、それに物理的な暴力からも守られるんだって。
竜神様は、ルノアを安全に守るためにお願いしたんだよ」
そして、胸を張るように続ける。
「成人するまでは、福もルノアを守るから。任せておいて」




