374 それぞれの未来
「それにしても……相変わらずモフモフで可愛い。
ルル、大きくなったね。私より背が高い……。
凛々しくなってるのに可愛いなんて……」
ルノアが嬉しそうに眺めると、ルルは少し困ったように笑った。
「もう。恥ずかしい……十一歳だからね。
でも、筋肉もついたでしょ! お兄様たちは嫌がるけど……」
ルルは照れたように笑い、腕を少し曲げて見せる。
「本当に大きくなったね」
「ルノアも背が伸びて、すごく綺麗。容姿は変えないんだね……白銀と紫眼。クロリナラド様の要望、だよね?」
「もう公表したからって、譲らなくて……」ルノアは苦笑した。
「まあ、クロリナラド様らしいけど」
二人で顔を見合わせ、くすりと笑う。
「あっ。そうだ。話しておきたいことがあって」
ルノアは、ふと思い出したように口を開いた。
「サンセール様から、特級クラスへ昇級したら、一度ルルに正式な謝罪の場を設けてほしいと言われてるの。ルルのご両親様の許可も取ったみたい」
「うん。私も聞いてる。竜皇国がリオンブラン王国の慣習をちゃんと受け入れてくれたから……」
ルルは少し真剣な表情になった。
「私は『婿入りの戦い』の勝者としか結婚しないから。異性とは、学び以外の交流はしないと決めてる。
だから、サンセール殿とも一度だけね」
そして、そばに控えるラムを見る。
「ラム、私に話しかける異性の前には、必ずラムが入ってください。これはヨーリアン帝国にも許可を取っています」
「承知いたしました」ラムが一礼する。
ルルは小さく息を吐いた。
「本当……許可が必要なことばかり……。息苦しい。
お兄様たちも合わなかったって……。
私も、先にルノアには話しておかないと……」
「学院の決まりもあるものね」
「うん。でも、私が決めたことだから」
ルルはまっすぐルノアを見る。
「ルノア、私は成人する前に、ここを卒業する予定なの。入学式後に卒論提出と飛び級卒院試験を受ける。
合格すれば、いつでも卒業できる状態にしておきたくて……学院の状態が酷かったら、早めにね。
リオンブランの王族は、ここの卒業資格が必要なの。
本当は三年くらいゆっくり学びたいんだけど……獣人の地位向上が、私の今後の仕事だと思ってる」
強い瞳で語るルルの尻尾が、ふわりと揺れた。
「うん。わかった。教えてくれてありがとう」
ルノアも頷く。
「私も入学式後に、卒論提出と飛び級卒院試験を受けるよ。私も、ゆっくり学びたいんだけどね……」
「ルノアも?」
「うん。私は、竜皇国の魔術学院で学びたい学科があるの。成人する前に、できるだけ学びを終えたいとは思ってる」
「そっかぁ……」
ルルは少し寂しそうに笑った。
「私たち、婚姻に……いや、言わない。
自由に生きられないけど……自分自身の人生だもの。後悔がないように学ぶわ!」
「うん。私もそうする」
二人は静かに笑い合った。
「あっ。それから、ネネのこともありがとう」
ルルが嬉しそうに続ける。
「お母様も、実際にネネが暮らしている環境を確認できて安心したみたい。
領民の方も竜人の方も、すごく優しいって。
ネネからもお手紙をもらったの」
少しだけ声が小さくなる。
「もう私とお母様がね……やっぱり……寂しくてね」
「また、ぜひタスワンズ湖に遊びに来てね。皆、待ってるから」
「うん!」ルルは笑顔を取り戻した。
「学生の間に、行きたい国にはなるべく行くつもり! まずはタスワンズ湖の魔豚のオヤキ! 食べたい!」
「ふふっ。やっぱりそこなんだ」
「あぁ……この話……今は、駄目だったね」
「うん。おやつは禁止だからね」
二人で顔を見合わせ、声を上げて笑った。
しばらく話したあと、夕食を一緒に食べる約束をして、ルルは自分の部屋へ戻っていった。
扉が閉まると、部屋には静けさが戻る。
それでも、先ほどまで聞こえていたルルの笑い声が、ルノアの耳にはまだ残っていた。
これから始まる学院生活。
学ぶことも、背負うものも、それぞれ違う。
それでも、友人として語り合える時間を大切にしながら、二人はそれぞれの未来へ歩き始める。




