366 ヴァリアードの歩んだ道
幼い頃からヴァリアードは、非常に高い魔力を持っていた。
しかし、まだ自分の力をうまく制御できず、その強大な魔力は周囲の人々にとって恐怖の対象でもあった。
友達は、いつもそばにいてくれた妖精様や精霊様。
そして家族だけだった。幼いながらに、自分は人から恐れられる存在なのだと感じていた。
従者も長くは続かず、すぐに別の者へと替えられてしまう。
妹のエミリアもまた、強い魔力を持っていた。
けれど、体が弱く、自分の魔力をうまく制御することができなかった。
ある日、ヴァリアードは隣の領地にあるマクアリール公爵家を、ラルフの友人候補として初めて訪れた。
その場には、同じ年頃の高位貴族の子供たちも何人か招かれていた。
ラルフもまた、ヴァリアードに負けないほどの高い魔力を持つ子供だった。
しかし、皆、ラルフの強すぎる魔力を感じ取ったのか、子供たちは次々と体調を崩し、親に連れられて帰っていった。
そんな中、ヴァリアードだけは違った。
自らも高い魔力を持っていたため、ラルフの高い魔力を恐れることなく、平然としていた。
二人は公爵家の図書室へ向かい、背中合わせになって、それぞれ静かに本を読んでいた。
その姿を見た両家の両親は、静かに涙し、ようやく安堵したのだという。
それからしばらくして、ラルフがユキライアナ侯爵家を訪れた。
そこで初めてエミリアと出会ったラルフは、彼女を見るなり、はっきりと言った。
「エミリアは僕の運命の番だ。エミリアも、僕が運命の番だと分かっている」
そして、ヴァリアードへ真っ直ぐに視線を向ける。
「義兄上であっても、僕のエミリアに抱きつくことは許せない。喧嘩はしたくない。
でも、聞いてもらえないのであれば、公爵家の跡取りとして、身分を盾にしてでも強行する」
幼い子供とは思えないほど、堂々とした宣戦布告だった。
それがなぜか嬉しくて、ヴァリアードは笑った。
そして、その日から高い魔力を持つ二人は、朝から晩まで身体と魔力をぶつけ合った。
まるで互いの力を確かめるように、どんどん新しい魔術や文献を読み、分からなければ調べ、家庭教師を問い詰め、辞書を駆使して国外の文献まで読み漁った。
学力も格段に上がった。
無気力だった二人の負けず嫌いな気質が刺激され、両親は喜んだ。
もちろん、両親たちは二人を無理に止めることはしなかった。
『喧嘩両成敗』
壊した魔道具などは二人で直させ、罰を受けるときも必ず二人一緒。
そんな二人の間にエミリアも加わり、三人は少しずつ幼馴染としての関係を築いていった。
両家の両親も幼馴染で仲が良かったため、ラルフとエミリアの婚約もすぐに整った。
ヴァリアードは、大切な妹をラルフに簡単に渡すつもりなどなかった。
何かにつけて二人の間に入り、邪魔をする。
ラルフとエミリアが仲良くすれば、すぐにヴァリアードが割って入った。
ヴァリアードにとっても、ラルフにとっても、お互いが初めて自分の強大な魔力を恐れず、真正面から向き合ってくれた存在だった。
そしてエミリアは、何よりも大切な妹。
喧嘩ばかりの二人だったが、ヴァリアードは早くから「ラルフなら」と認めていた。
こうしてヴァリアードとラルフ、そしてエミリアは、かけがえのない幼馴染として成長していった。
ヴァリアードがヨーリアン帝国の魔術学院へ入学するのに合わせ、ラルフも飛び級で一緒に入学した。
入学してすぐ、ヴァリアードの父が病で倒れた。
そして二人は、最短で卒業してカーナリアン王国へ戻った。
ラルフの父は宰相を務めており、一人息子のラルフが宰相となることは決まっていた。
ただ、病弱なエミリアが宰相の妻になることを、ヴァリアードは無理だと思った。
宰相の妻として社交界に出て、悪意にさらされるなど……。
二人の仲を認めてはいたが……あの時は、結婚に反対してしまった。
祝福して、結婚式に出れば良かったのに……。
ラルフはヴァリアードの反対を押し切り、エミリアが魔術学院を卒業すると同時に結婚した。
エミリアの父親は二人の結婚を見届け、安心したのか天に還った。
番を失った母も、また天に還った。
エミリアが公爵家に嫁ぎ、ヴァリアードは爵位を返納した。
魔塔の仕事も忙しく、ただ妹から届く魔鳥便の手紙は、いつも読んでいた。
そこに綴られた幸せそうな日々を読み、ヴァリアードは安心していた。
やがてラルフの父が病に倒れ、その後、ラルフが宰相となることが決まった。
魔塔に勤めていたこともあり、ヴァリアードは政とは疎遠でいたかった。
運命の番の腕輪の誓いも果たしたのなら、もうエミリアは大丈夫だと安心していた。
仲良く暮らしているという便りもエミリアから届いていたため、疑うことはなかった。
その一方で、ヴァリアード自身は王家の『黒銀の鎖』に囚われてしまっていた。
ルノアが六歳の時、エミリアが天に還ったと聞いた。
そして初めて、エミリアが番の腕輪の誓いをしていなかったことを、聞かされた。
自分の愚かさに、ヴァリアードは打ちのめされた。
なぜ確認しなかったのか。
会いに行けば、すぐに分かったことだったのに……。
エミリアの死後、無気力になったヴァリアードに、国王はルノアの肖像画を見せた。
マクアリール公爵家とルノアを盾にされ、ヴァリアードは生きることすら諦めかけていた。
もう天に還りたかった。
それでも、マクアリール公爵家とルノアを守る者として、なんとか生き延びようと耐えた。
そして、ルノアが十歳の時。
亡き妹が遺した『解放の指輪』によって、ヴァリアードはようやく呪いから解放された。
冷静沈着で頭脳明晰。
一見すると厳格な印象を与えるが、決して冷たい人間ではない。
長い苦しみを経験したからこそ、人の痛みや弱さにも気づくことができる。
そして、力を持つ者が、その力を何のために使うべきなのかを知っている。
けれど、その根底にあるのは、大切な者を守りたいという強い思い。
力を持つ者として、その責任を知っている。
それが、ヴァリアードという人物である。




