355 マクアリール公爵家騎士団の戦い
ヴァリアードの試合開始の合図と同時に、二十人が一斉に駆け出した。
一軍も二軍も、互いの手の内を知り尽くしている。
どこで仕掛けるのか。誰が囮になるのか。誰が旗を狙うのか。言葉を交わさなくても分かる。
「……来るな」一軍の一人が笑う。
次の瞬間、二軍の騎士が正面から飛び込んできた。
「ドンッ!」
身体と身体が激しくぶつかり、二軍の騎士が弾き飛ばされるが瞬時に立ち上がった。
「……強くなったな」一軍の騎士が僅かに笑う。
「まだまだ」短い返事。
しかし、相手が囮だったと気付いた一軍は別の相手に向かっていた。
「ああ……やっぱり早いな」二軍が笑う。
別の二人がぶつかる。
誰が誰を倒すのかではなく瞬時のお互いの判断を其々見ながら動いていく
その横では、別の者たちが激しく入り乱れていた。
「右」
「行け」
「左、押されてる」
短い言葉だけが飛び交う。
一軍が一人を押し返せば、二軍はその隙を狙って別の者が入り込む。
一軍がそれを読めば、二軍はさらにその裏を取る。
互いに相手の考えを知っている。
だからこそ、簡単には崩れない。
そして、一軍の騎士たちは二軍の動きを見ながら、何度も小さく笑った。
以前とは明らかに違う。
速い。強くなった。判断も早い。
「……やるな」
「必ず勝つ!」言葉はそれだけ。
しかし、その表情には嬉しさが滲んでいた。
長い鍛錬を共にしてきた仲間だからこそ、二軍の成長が手に取るように分かる。
試合は互角のまま進んだ。
やがて二軍が、一瞬の隙を作る。
「今だ!」一人が旗へ走った。
一軍もすぐに反応する。
だが、二軍はそこからさらに一人を囮にした。
一軍の視線が僅かに逸れる。
その瞬間、サンセールが動いた。
「取った!」旗へ手が伸びる。
しかし……
「……そこだ!」一軍の騎士が僅かに身体を入れ旗に触れた瞬間自分の陣地近くに投げ飛ばした。
サンセールの手が旗に触れる寸前だった。
ほんの一瞬。一軍はその隙を逃さなかった。
旗を取り別の仲間へ渡す。
二軍が一斉に追う。
だが、一軍の十人は互いに道を作り、最後の数秒で決めた。
終了の合図が響く。
静まり返った戦場で、一軍が旗を掲げた。
勝敗は、ほんの僅かな差だった。
サンセールが息を整えながら、一軍の前へ歩み寄る。
一軍の騎士も歩み出る。
「……強くなった」
「ありがとうございます。でも……悔しい。次は負けない!」力強い握手だった。
別の一軍の騎士も次々手を差し出す。
サンセールが全員の手を握る。
続いて二軍の騎士たちとも、サンセールは一人ずつ短く握手を交わしていく。
言葉は少ない。
だが、その表情には互いへの敬意と、仲間の成長を喜ぶ笑みがあった。
その光景を映像で見ていたルディノールは、ふと昔の記憶を思い出した。
学生時代。自分が何度挑んでも勝てなかった、リオンブラン王国との旗取り合戦の試合。
圧倒的な個の力では負けていなかった。
それでも、最後には必ず旗を奪われた。
なぜだったのか。今なら分かる。一人が動けば、別の者が動く。一人が追えば、別の者が道を作る。
誰かが攻めれば、誰かが守る。全員が互いの動きを理解し、同じ瞬間に動いていた。
「……そういうことだったのか」
ルディノールは静かに呟いた。
自分たちは、一人一人の強さで勝とうとしていた。
だが、リオンブランは違った。互いの弱点を知り、相手の弱点を見極め、狙われたら一人が囮、瞬時に次の一手で巻き返す。
十人で、一つの戦力だったのだ。
「軍師次第で勝てたのだな……リオンブラン王国の一人一人の分析など俺はしなかった。侮っていたのだな。きっと私もどっかで……今となって気がつくとは……」
静かに目を閉じた。




