349 リオンブラン王国 新たな一歩
「……しかし、陛下……」
宰相が少し困った顔をする。
「我々は、かなりの秘密を聞いてしまっているのでは?サンセール様のことも、竜皇国の皆様のお名前とか……秘匿でしたよね?丁稚奉公の慣習のことまで……」
皆の顔に、今さらながら不安が浮かんだ。
「ここまで聞いてしまって、大丈夫なのでしょうか?」
「あっそうか……たしかに。リアムもルディノールもクロリナラドの名前も公表されてないか……。
ああ……皆知らないのか。ヨーリアン帝国の魔術学院は皆ただの学生で、身分はなしで名前呼びなんだよ。
はじめは皆気が付かないんだよ。竜皇国からなんて……でもな、段々と優秀だからわかるんだよ。
何でも答えられるのになんで魔術学院に三年もいるの?あぁ……丁稚奉公してるのね……そんなに強いのに?あれ?隠密ついてるよね?魔力おさえてるよね?変幻してるの?あぁ……竜人か?まさかの!ええっ王太子なの?卒業近くになると外交みたくなるからね。
卒業してから国際会議とか各国の世界のなんたらで皆どっかで会うわけ。
宰相や、外相や、王太子や、優秀な事務次官とか、
そこで久しぶり!になるから………そうか我が国も、もっと魔術学院に進学させないと駄目だな……成績優秀者は支援金だすか……。平民でも学びたい者を助けてやれば……南大陸言語が必須だな……」
ブツブツと何かを考えはじめたレオンを見ていたら
次の瞬間……。
「ふふっ」レオンジュニアが小さく笑った。
「皆さん、何を心配しているんです?」
皆の視線が集まる。
「話し合いの前に全員署名して入室しているでしょう?」
「………………!?」
「……あ」
「そういえば……」
「珍しく、魔法契約書……」
レオンジュニアは楽しそうに笑う。
「今日ここで話される内容が重要になることくらい、最初から分かっていましたから。
陛下が話し始めれば、かなり深いところまで、自由に話されるだろうとも、思っていました」
「おい、ジュニア」レオンが苦笑する。
「俺はそんなに分かりやすいか?」
「分かりやすいですよ」即答だった。
「…………!」全員が沈黙する。
つまり、自分たちは最初から魔法契約で守られていた。
王太子レオンジュニアは、陛下がどこまで話すかを予測したうえで、話し合いが始まる前に全員をきっちり押さえていたのだ。
「これなら安心でしょう?」
にこやかに言われ、皆は頷くしかなかった。
そして、別の意味で理解する。
自由奔放なレオンを抑えているのは、誰よりも冷静で抜け目のない、この王太子なのだと。
「……では、話し合いを続けましょうか」
「そうだな」レオンも何事もなかったように頷いた。
皆はようやく胸を撫で下ろした。
王太子がきちんと手綱を握っている。安心できる。
ただ……。
『……ちょっと怖かった』
そんな本音だけは、誰も口にしなかった。
そして最後に、皆が心の中で同じ感想を抱いた。
『……やはり、シルバーライオンは凄い……』
レオンは笑った。
「『婿入りの戦い』結果次第、六年後に改めて検討する。その間に、こちらも準備しておく」
「六年……」
「ルルが十六になるまで、まだ時間はある。サンセールとのことも、ルル本人がどう考えるかを見ながらだ」
王太子が頷く。
「その間に問題が起きないことを願いたいですね」
「そうだな」レオンは少しだけ遠い目をした。
「まあ、こちらで対処できないようなことが起きたら……その時は相談すればいい」
「竜皇国に、ですか?」
「そういうことだ」
あまりにも軽い。
重臣たちは顔を見合わせた。やはり、この親子は規格外だ。
「……次代については、私たちも責任を持って支えましょう。異議ありません。今回のことも、次の世代へ正確に伝える必要がありますな。ただし、秘匿すべき部分は明確にしておく。その許可を、陛下にいただきたい」宰相が伝えた。
レオンはジュニアを見る。
ジュニアは苦笑しながら頷いた。
「父上、よろしいのでは?」
「もちろんだ」レオンは笑った。
「お前たちなら大丈夫だろう。頼むぞ。今後、必要となることを、それぞれ各省庁で有識者の意見を聞きながら取りまとめてくれ。」
レオンジュニアが皆を見た。
「それから、幼少期から、南大陸言語と竜皇国語だけは取り入れて下さい。竜神教会の聖書で勉強するので、ほぼ皆、竜皇国語は問題ないのですが……私も全言語の中で、南大陸言語が一番難しかったのを覚えています。全言語話せるのは王族と蛇族だけでは……心許ない。」
レオンがまた軽く言った。
「学んだやつから給料をあげるか……やる気になるだろう。言語さえ話せれば……身分関係なく登用可能にする。ただし間者もいるから気をつけないとな……」
宰相が言った。
「まず南大陸言語を習得してから他国の言語と順番を設けるのはどうでしょう。たしかにヨーリアン帝国の勉強も南大陸言語で躓いて諦める者が多かったですしな。幼少期から学べたら……まず南大陸の聖書を……いや、教会を通して全言語取り入れましょう。同じ内容ですから、辞書も入りませんし。
辞書はやはりカーナリアン王国の物が高いですが間違いありません。
しっかりと学べた者から、北、西、東と言語を好きに学べる環境を整えていきましょう。」
「そうだな。六年後世界中から、取引の申込が入るだろう。こちらが言語がわからないと馬鹿にされ騙される。学べる環境を整える。それが早急に必要だな。
ヨーリアン帝国の魔術学院への留学制度の補助金も考えてくれ。
次世代を育てなければいけないからな。」
「体力、魔力、頭脳ですね。我が国の魔術学園と、市井の学校の教育体制を見直しは開始していますので……。あと大人の勉強できる場所を……子供たちが帰ったあと、仕事を終えた大人たちの学校へと利用しましょう。教会も。数多くありますから……」
蛇族の教育有識者が提案した。
「たしかに……良い案だ。リオンブラン王国の民であれば、身分に関係なく優秀な者を見つけ、次の世代へ繋げていきたい。
蛇族がとにかく優秀だから……取りまとめて貰っても大丈夫か?」
「はい。畏まりました。」
重臣たちも深く頭を下げた。
こうして、リオンブラン王国の今後の方針が決まった。
カーナリアンとは、いや、どの国とも、どの者とも、平等に、誠実に向き合う。
竜皇国には感謝を伝え、六年後を見据えて準備を進める。
獣人の地位向上も、誰かに任せるのではなく、自分たちの手で少しずつ変えていく。
強い者が弱い者を守り、同じ世界に生きる者として互いに手を差し伸べる。
そのためには、制度だけではなく、この国に生きる一人一人の意識も変えていかなければならない。
自分たちの足で立ち、自分たちの手で未来を作る。
その決意を胸に、重臣たちは六年後を見据え、それぞれの立場から必要な提案を出していった。
すべては、六年後にこの国が、胸を張って竜皇国と向き合えるように。
その日を目指して、リオンブラン王国はまた新たな一歩を踏み出した。




