348 リオンブラン王国 これからの六年間
すると、別の重臣が恐る恐る口を開いた。
「……竜皇国への親書はいかがいたしましょう」
レオンは少し考え、苦笑した。
「リアムには……そうだな。まずはお祝いだな。クロリナラドとルノア様の」
そして、あっさりと言った。
「前にサンセールの件で、リオンブラン王国からも護衛をつけることと、魔道具使用の許可を取るために親書を出している。
その時に一度、リオンブラン王国にも『友好国』と言ってくれていたからな。
『友好国と言ってくれてありがとう。だが、皆と検討した結果、ルル次第だから、やっぱり今は無理だ。すまんな』
それでいいだろう」
「………………!!」
「…………………!?」
部屋にいた者たちは、一斉に固まった。
「陛下……今、『友好国』と?」
「ああ。聞き間違いではない」
レオンは平然と答えた。
「竜皇国が、リオンブラン王国を二番目の友好国として迎えてもいいと申し出てきている」
「それは……非常に大きな申し出では? 獣人の地位も向上するのではないでしょうか?」
「そうだな」
「でしたら……」
「断る」
「………………!?」
再び、広間が静まり返った。
「なぜですか?」
「ルルの婿入りの戦いの結果次第だからだ」
レオンは迷いなく続けた。
「勝者と結婚する。それが王族が代々守ってきた慣習だ。こちらの都合で崩すわけにはいかない。
我ら獣人の世界的な地位が低いことは理解している。だが、誠実な相手を見極めることはできる。我が国は今、自分たちの力で暮らしを安定させている。
ならば外交も必要最低限でいい。
戦闘能力だけを買われ、民の命を軽く扱われるような関係など必要ない。だからこそ、最初に軍事協力をすべて見直したんだろう?」
「ですが……竜皇国が相手ですよ? これが最後の機会になったら……」
「だから? 竜皇国だから何だ?」
レオンは首を傾げた。
「相手が竜皇国だからといって、慣習を曲げる理由にはならない。それでは対等な友好国とは言えないだろう。向こうが友好を求めてくれているのなら、こちらも誠実に向き合えばいい。
必要以上に尻尾を振る必要はない」
誰も反論できなかった。
レオンは少し表情を曇らせた。
「獣人の地位向上だって、竜皇国にしてもらっては意味がない。自分たちで成し遂げなければならないんだ。
竜皇国と友好国になったから平等に扱う。
竜皇国がそう言ったから差別をやめる。
そんなものは、本当の意味で地位が向上したとは言えない」
レオンは重臣たちを見渡した。
「皆、この世界で生きている。一つの命として相手を見ることができなければ、何も変わらない。
知能が低いと言われる者もいる。
獣人でも力が弱い者はいる。
人族とは違う容姿や能力を持つ者もいるだろう。
だが、それが何だ?」
レオンの声が鋭くなる。
「知能が低ければ、生きる価値がないのか?
力が弱ければ、虐げていいのか?
容姿が違えば、醜いと侮って好き勝手に笑って扱っていいのか?
俺たちは獣人だからというだけで差別され、虐げられてきた。
それを憎んできたはずだろう。
獣人だからと蔑まれることには怒るくせに、コボルトだからと馬鹿にする。
俺たちを虐げてきた奴らと何が違う?」
誰も答えられなかった。
「皆、生きている。家族がいて、大切なものがあって、失えば悲しむ。それは種族や身分が違っても同じだ」
レオンは静かに言った。
「だから俺は、強い者が弱い者を守るのは当然の責任だと思っている。
強いから偉いんじゃない。力があるから好き勝手にしていいわけでもない。
その力を持っているからこそ、持たない者を守る責任がある。
高位貴族だから何だ?
強い種族だから何だ?
魔力が多いから何だ?
それを理由に誰かを見下すなら、その力も身分も誇る資格はない」
レオンの目が、重臣たちを射抜いた。
「竜皇国が、なぜ不干渉を貫いているのか考えたことがあるか?
なぜ精霊様や妖精様を敬い、自然を大切にし、スタンピードを管理している?」
一度、言葉を切る。
「簡単なことだ。当然のことだからだ。
『強きものとしての責任を果たしている』だけだ。
力を持つ者がその力を振りかざせば、世界は簡単に壊れる。
竜皇国が責任を放棄して本当に不干渉となれば、スタンピードを止められる者はいなくなる。
それほどの力を持つ者だからこそ、力の意味を本当に理解しているんだ」
重臣たちは、ただレオンを見つめるしかなかった。
「俺たちが本当に変えるべきなのは、獣人の地位だけじゃない。
種族や身分で人の価値に上下をつける、その考え方そのものだ。
差別されてきた俺たちだからこそ、同じことを誰かにしてはいけない。
獣人としての誇りは忘れない。」
レオンは静かに言い切った。
「強きものとしての責任を果たせる国になる。
その準備が、まだこの国には足りない。だから六年だ。
六年で、真の獣人として、強きものとして、誇りと責任を持った国にしていかなければならない」
広間に、重い沈黙が落ちた。




