34 転生者だな?クロリナラド殿下に聞かれました
伯父様が、私とラルフを見て尋ねた。
「私とラルフは、退室しようか?」
殿下が頷く。
「今回だけはすまないが、二人だけにしてくれ。ルノアは安全だ」
「分かりました」
お父様と伯父様は部屋を出ていった。
二人の姿が見えなくなると、殿下はすぐに部屋全体へ結界を張った。
そして、福ちゃんへ尋ねる。
「福様。竜神様は、なんと?」
「任せるって」
福ちゃんが短く答える。
殿下は私に向き直った。
「ルノア。これから話すことには、少し重要な内容が含まれている。ここに魔法契約書がある。お互いを守るためのものだ。内容を読んで、契約してほしい」
私は契約書に目を落とした。
「私は未成年ですから……父に確認をしてからにしたいです」
すると福ちゃんが、私を見つめた。
「ルノア、大丈夫。これは竜神様との約束なの。福を信じて、書いてくれる?」
その言葉を聞いて、私は頷いた。
そして、その場で契約書に署名した。
殿下はそれを確認すると、静かに口を開いた。
「ルノア。君は……転生者だな?」
私は息を呑んだ。
「実は、君を以前の世界へ送ったのは私なんだ」
「……殿下が?」
「ああ。そうしなければ、君は魂ごと消滅してしまっていた」
殿下は、ゆっくりと言葉を続けた。
「そして君が別の世界で天へ還った時、こちらの世界へ転生させる。その約束を、私は竜神様と交わしたんだ」
私は黙って殿下を見つめた。
「私も、竜神様の愛し子なんだ」
その言葉に、驚いて目を見開く。
「そのことは、竜神様と父上と話し合った上で、秘匿している。竜皇国には優秀な第一王子がいる。国の将来も安泰だ。
だが、私の方が魔力量も多く、力も強い。だから私を王に担ぎ上げようとする者たちがいたんだ」
殿下は少し苦笑した。
「それ以来、今も秘匿したままなんだ。公の場にほとんど出ないのも、また私を王にしようとする者が現れないとも限らないからだ」
そして、真っ直ぐに私を見つめる。
「それから……前の君も、今の君も、私にとっては同じ魂を持つルノアだ。決して代わりなんかではない」
その言葉に、胸が少しだけ苦しくなった。
「魔力に惹かれていると言われれば、それも大切な要素ではある」
殿下は少しだけ視線を伏せた。
「私の強い魔力を受け入れられるのは、ただ一人だけなんだ。
でも、それは一方的なものではない。私と相手の間に同じ恋愛感情が生まれなければ、受け入れることも、受け入れてもらうこともできない。
……恋愛と同じなんだ」
そして、穏やかに微笑んだ。
「前も今も、ルノアは私を好いてくれている」
私は、その言葉に胸が熱くなる。
「私は、魔力を頼りに君を待っていた」
殿下は少し迷うようにしてから、尋ねた。
「だから……君が以前の世界で亡くなった時の年齢を聞いてもいいだろうか?
女性に年齢を尋ねるのは失礼だと分かっているんだが……」
「はい。私は……三十一歳で亡くなりました」
「そうか……」
殿下は静かに頷いた。
「結婚はしていたかい?」
「いいえ」
私は少しだけ考えてから、続けた。
「恋愛感情が動いたのは、亡くなる前の二年間だけでした。
あちらの世界で、架空の物語の中に……あなたが登場人物として出てきたんです。
私は、その物語のあなたに夢中になりました。
あなたに会いたいと思っても、会うことはできないまま亡くなってしまって……。
だから先ほど、実際にあなたに会えた時、嬉しくて涙が止まらなかったんです」
「そうだったのか……」
殿下は、少し困ったように笑った。
「物語の中の私は、今の私とは違うんだろう?」
「はい」
「……それでも、嫉妬してしまうな」
思わず、私は小さく笑った。
「私も……魂が同じだと聞いても、前の記憶がないから、少し心がもやもやします」
「お互い様、ということか」
殿下も微笑んだ。
けれど、その表情はすぐに静かなものへ変わった。
「ただ……私は、前の記憶は思い出さない方が幸せだと思っている」
「……どうしてですか?」
「前回は、魔石戦争が起きてしまった。そして私は……君を守ることができなかった」
殿下の声が、少しだけ震えた。
「竜神様にも、干渉できることと、できないことがある。
あの時のことは、私もずっと心を痛めていた」
一度、深く息を吐く。
「だからこそ、君を別の世界へ送ることも、そしていつかこちらへ戻すことも……竜神様が約束してくださったんだ」
殿下は私を真っ直ぐに見つめた。
「時間はかかった。
それでも今、君は私の目の前にいる。
過去がどうだったとしても、今ここにルノアがいること。それが、私にとってすべてなんだ」




