33 竜神様の神託
福ちゃんが私の元気珠を二人に渡すと、お父様と伯父様は少しずつ顔色を取り戻した。
二人とも何度か咳払いをしてから、クロリナラド殿下へと視線を向ける。
「クロー。すまないが、ルノアから離れてくれ。接触は許容できない。今回だけだ。なっ、ラルフ!」
ヴァリー伯父様がそう言うと、お父様も頷いた。
「そうですね。慰めてくださり、ありがとうございました。ルノアも、もう大丈夫だな?」
「はい。取り乱してしまい、申し訳ございませんでした」
「分かっているよ。まだ未成年だということも理解している。どうしても本能的に保護対象になってしまうんだ。十歳は赤ちゃんと同じくらいに思えてしまう。だから、心配もしなくていいし、誤解もしないでくれ」
クロリナラド殿下はそう言って、少し困ったように笑った。
「それよりも、神託について説明しても大丈夫か?」
「はい」
私が頷くと、殿下は先ほどお父様と伯父様に話した内容を、私にも同じように説明してくださった。
竜神様から告げられた神託。
そして、私が殿下にとって大切な存在であること。
すべてを聞き終えた私は、しばらく考えてから口を開いた。
「お父様と伯父様でお話しされた結果、私はどうするべきだという結論になりましたか? それをお聞かせください」
お父様は眉間に皺を寄せ、少し考えてから話し始めた。
「本当なら、誰とも婚約させたくないんだが……」
そこで一度言葉を止め、私を見る。
「やはり、クロリナラド殿下と婚約した方が、ルノアが安全だという結論になった」
「福ちゃんが……いや、福様とお呼びした方がいいのか?」
お父様が福ちゃんを見る。
「お父様は福ちゃんでいいよ。ヴァリーアードはダメ。福様だよ!」
「分かった」
お父様は苦笑しながら頷き、話を続けた。
「クロリナラド殿下とルノアが運命の番であることを、守護獣である福ちゃんが認めている」
「ルノアが望むのであれば、私は殿下との婚約を結びたいと思っている」
「現在、マクアリール公爵家にもかなりの数の釣書が届いている。王国にしろ帝国にしろ、王族からの求婚となれば、何が起こるか分からない。ルノアの身に危険が及ばないか、それが一番心配なんだ」
お父様は真剣な表情で続けた。
「その点、竜皇国の竜人皇族である殿下の『運命の番』となれば、他国から干渉されることもないだろう。
ルノアが望んでいる、静かに暮らすということを一番に考えても……
殿下が相応しいのではないかと思った」
「それに、竜神様は竜神教会に対しても、愛し子であることの発表は許されても、それ以上の情報はすべて秘匿するよう命じてくださった。教会の方々全員と魔法契約書を取り交わしたうえで、公爵家まで来てくださったんだ」
お父様はクロリナラド殿下へ視線を向ける。
「私からこんなことを言う立場ではないが……実際にお話ししてみて、大変優秀な方だと思った」
そして、私へ視線を戻した。
「ルノアがこれから何か新しいことを始めても、自由を認めたうえで必要な環境を整えてくださるだろう。そう思えるから、安心できるんだ」
「だから……やはり、殿下なのだろうと思った」
お父様が少しだけ笑う。
「先ほどから見ていても、ルノアも殿下がいいのだろう? 違うかい?」
私はその質問には答えなかった。
ただ、クロリナラド殿下を見つめた。
そして、もう一つだけ確かめたいことがあった。
「殿下にも、質問をさせていただいても大丈夫でしょうか?」
「ああ。もちろんだ」
「先ほど、私は殿下の番だった方の生まれ変わりであり、竜神様から『今度こそ守れ』という神託を受けたとお聞きしました」
私は少しだけ息を呑む。
「私は……殿下にとって、以前の方の代わりなのでしょうか?」
殿下の表情が僅かに揺れた。
「私には、その方の記憶はありません。これから後になって、思い出すことになるのでしょうか?」
しばらく沈黙が続いた。
やがてクロリナラド殿下が、静かに口を開いた。
「ああ……説明をしなければならないな」
そして、福ちゃんへ視線を向ける。
「福様。お話しする許可を、竜神様にお取りいただいてもよろしいでしょうか?」
殿下は私をまっすぐ見つめた。
「番がこれほど聡明なのだから、私は誤魔化したくない。ルノアには、知る権利があると思っている」
福ちゃんは殿下の言葉を聞くと、静かに目を閉じた。
そして、竜神様へと確認を取るため、意識を集中させた。




