338 竜皇国の奇病
リアムが皆に聞いた。
「問題は、まだあるのだな?我々が考えなければならないことが……
ルノアが嫁いで来る前に、どう迎えるだけではなく、どうすれば、ルノアがこの国で安心して暮らせるかだな」
その言葉に、誰も異論を唱えなかった。
「『竜環の繋ぎ手』としてだけではないな……」
アリエナ王妃が続ける。
「一人の女性として。そして、クロリナラドの『運命の番』として、静かに、幸せに、過ごすこと。」
室内の空気が変わった。
クロリナラド。そして、その前の『運命の番』
その生まれ変わりとして竜神様の神託があった。
誰もが詳しく語ろうとはしない。けれど、その悲劇は王族の中で決して忘れられていない。
「……ところが」
ルディノールが一通の報告書を机の上へ置いた。
「すでに、問題が起きています」
「やはりか……」
リアムは報告書を見る前から察したように笑った。
「『運命の番』が見つかり婚約したと発表した翌日には、マクアリール公爵家へ、嫌がらせの手紙が竜皇国の貴族から多数届けられました。
その後、ルノアの誕生日のお祝いとして、多数の呪いの手紙や嫌がらせの贈り物、呪の魔道具など竜皇国が一番多かったそうです。」
サラヨがさっと一覧表を国王陛下に手渡した。
「……まあ……内容は?」
アリエナが眉を寄せる。
サラヨが静かに答える。
「クロリナラド殿下の婚約者候補を自称するもの。
ルノア様に対する牽制。
人族は相応しくない。辞退しろ!など……
あとは婚約者候補として選ばれなかったことへの不満を綴ったものもあったようです。」
「選ばれていないのに?」
ユキノアが呆れたように呟いた。
「自分は候補だったと思い込んでいた、というの?」
「そもそもクロリナラド殿下には、正式な婚約者候補など存在していません」
サラヨが続けた。
「クロリナラドの前回の番の悲劇を知っている家なら、絶対にそんな手紙は出さないと思ってな。
もちろんクロリナラドの番の件は秘匿された。
でも貴族であれば……必ず理解できた。
王族は、運命の番以外と子ができない。そんな当たり前のことを、誰もが知っていると思ったが……。
それなのに、婚約者のいなかったクロリナラドに勝手に夢を見ていた令嬢がこれほど多いとは……」
リアムは呆れたように首を振った。
「時間というものは恐ろしいな」
アリエナが静かに頷いた。
「各家で、伝えるべきことが伝えられていなかったのでしょう」
リアムの笑みが少しだけ消える。
「前回の悲劇を知っている祖父母や曾祖父母の世代がいなくなり、家の中で引き継ぎがされなかった。
高位貴族であればあるほど、歴史を知っていることが重要だというのに……」
王太子が報告書をめくる。
「嫌がらせの手紙や贈り物には……術返し、呪い返しが発動しています。」
その一言に、室内が静かになった。
「何人かの令嬢については、すでに社交界から領地へ戻されています」
「本人が書いたものだけではないのだな?」
「指示を出した者も含まれています。手紙を書いた本人、あるいは嫌がらせを指示した本人、術返しや呪い返しが多数発動されていることが確認されています」
「当然の結果……」
アリエナが淡々と言った。
「マクアリール公爵家に手を出したのですからね。
それだけではない。最近、社交界から姿を消した令嬢たちの中には、以前から問題を起こしていた者も多いのでは?」
「その通り。」ルディノールが頷いた。
「一部では、今回の件をきっかけに症状が現れたため『奇病』などと呼ばれているようですが……」
「奇病、か」
リアムが鼻で笑った。
「自分が人に向けたものが、自分に返ってきただけだろう」
誰も否定しなかった。
「問題は、これだけではありません」
王太子が別の報告書を取り出した。
「魔術学園、魔術学院での追加の報告が来ています」
「まだあるのか……」リアムが額を押さえた。
「来期再開予定の魔術学園、魔術学院の入試応募に、退学者が応募多数と報告がきております。
成績の不正、試験への干渉、推薦枠を巡る不正。
貴族家の子弟が、自分の家の権力を使って便宜を図らせようと今、複数確認されています」
「……呆れたものです」
ユキノアが目を伏せる。
「竜皇国の未来を担う者たちが、それでは困りますね」
「失敗したから終わりではない。自分たちが間違っていたと認め、努力すれば、もう一度道を選び直すことができる。
本当に学んだ者だけがまた再入学できるように徹底させるだけだな。」
リアムが静かに言った。




