337 クロリナラドの秘密
竜舎で起きている変化と、もう一つ。
竜皇国の王城では、国王夫妻と王太子夫妻が、静かな話し合いを行っていた。
『竜環の繋ぎ手』
その存在が、これからの竜皇国に何をもたらすのか。
「竜神の愛し子が現れる年に、時々現れると伝承にはあったが……ルノアが『竜環の繋ぎ手』か……」
リアムは静かに皆を見た。
「竜たちの声を聞き、気持ちを理解し、必要なことを伝えられる。しかも、竜たちの側からもルノアを受け入れている。
エルナと『竜の誓い』も済ませたんだな。」
竜と竜人。
長い年月をかけて築いてきた関係が、今、大きく変わろうとしていた。
「そして、もう一つあります」
王太子ルディノールが口を開いた。
「父上がこれまで、クロリナラドについて秘匿にされていたことです」
リアムが静かに息を吐く。
クロリナラドが……『竜神様の愛し子』であるということ。
それは、これまで国王であるリアムだけが知る秘密だった。
ルディノールにも、あえて伝えられていなかった。
「隠密から報告を受けました」
ルディノールは父を真っ直ぐに見つめた。
「私たちの契約白竜四頭が、クロリナラドに頭を下げたと。そしてその後入室したルノアにも……。」
「……そうか」
「はい。そして、それを竜舎全員が見ております。
その場にいた全員と新しい魔法契約書を交わし終わっております。」
ルディノールは穏やかに微笑んだ。
「父上。もう、皆が知っています」
リアムはしばらく黙り、それから小さく笑った。
「そうだな」
「私の立場を考えて、これまで秘匿してくださったことには感謝しています。
クロリナラドからの提案だったのでしょう?」
「ああ……そのとおりだ」
リアムは苦笑しながら、魔空間から一枚の書類を取り出した。
「『兄上が次期国王にふさわしい。自分には荷が重い』と言ってたな。王位継承権放棄書に署名した書類だ」
「ですが、もう大丈夫です」
ルディノールの声に迷いはなかった。
「これからは家族の間で、何も隠さず、話し合えるようにしましょう」
アリエナ王妃、ユキノア王太子妃も、穏やかに微笑んだ。
「家族なのですから。秘密を抱えるより、支え合い、話し合えるほうがよいでしょう」
「そうだな」リアムは頷いた。
しばらくして、ルディノールは父へ向き直った。
「父上。私も、王太子として、次期国王として、六百五十年の任期を誠実に果たします」
リアムの目が細められる。
「その先は……?」
「私たちが崩してしまった慣習を、曖昧となってしまった後継者教育について、歴史のとおりに元に戻してください」
ルディノールは穏やかに続けた。
「候補者たちの中から、次の国王を決める。本来の慣習へ戻すべきです」
ユキノアも頷く。
「私たちは、王族として守るべき慣習を崩し、その結果、王位継承権候補者が、いなくなる危機まで招きました。
だからこそ、自分たちの手で正したいのです。慣習には、理由がありました」
ルディノールは静かに言った。
「代々、王族の養育者、教育者兼執事長を務めてきたナダルノ侯爵家に、以前の役目を戻していただき、今後は、王族であっても、その役目に一切干渉しない。
ナダルノ侯爵家は、常に監察院を受け入れ、学習法は進化しております。
昔ながらの物も残しながら柔軟な考えも取り入れ、努力し、立ち止まってはいないのです。」
リアムはしばらく二人を見つめ……やがて、静かに頷いた。
「分かった」
竜環の繋ぎ手が現れた。
竜神の愛し子も、もはや王族だけの秘密ではない。
そして、ルディノールの息子たちも過去の愚かさを認め、未来へ向かって歩き始めている。
王太子夫妻もまた、自分たちが崩した慣習と、その結果生まれた危機を認めた。
そして、弟夫妻とその子供たちにも、正統な王位継承権候補者として、その仕組みに参加してもらう。
それが、彼らが過ちを正すために選んだ道だった。
後日、王族、高位貴族、有識者、監察院、王位継承院で協議し、本来の慣習へ戻すことが正式に決定された。




