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転生したのでレアアイテム集めたい…えっヒロイン退場してしまいました  作者: 5H


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336/352

336  竜舎の改善

ヴァルたちの面会を終え、ラグナとエルナの竜舎へ移動した。

ざわざわとした鳴き声の中に、それぞれ違う感情が混じっている。

嬉しい。疲れた。お腹が空いた。痛い。眠い。

そんな言葉が、まるで頭の中へ直接届いてくるようだった。

「……ノア?」

クロリナラドが、少し心配そうに声をかける。

「大丈夫です」

ルノアは小さく頷いた。

「ただ……みんなの声が、前よりもはっきり聞こえます」

「そうか……」

クロリナラドは驚くこともなく、静かに微笑んだ。

「なら、聞いてみようか。竜舎で困っていることがないか」

「はい」

ルノアは竜たちへ向き直った。

「みんな。先程お聞きしたことを詳しく教えてください。何か困っていることはありますか?」


一頭の大きな赤竜がゆっくりと前へ出てきた。

ーー訓練のあとのブラシが、痛い。


「……ブラシ?」ルノアが首を傾げる。竜舎の者が、はっとした顔をした。

「まさか……ブラシのことでしょうか!」

慌てて道具置き場へ向かう。そこから持ってきたのは、長年使い込まれたブラシだった。毛はすっかり固くなり、ところどころ折れている。

「これですか?」

ルノアはブラシを手に取ってみた。

「これで、訓練のあとに身体を……?」

「はい。古くなっているのは分かっていましたが、使えるうちはと思って……」

申し訳なさそうに答える。

ルノアはブラシを見つめ、それから竜たちを見た。


ーー我慢していた。痛いけれど、世話をしてくれる者に悪いと思って言えなかった。


その言葉を聞いた瞬間、ルノアの胸が痛くなった。

「……これは、変えたほうがいいな。」クロリナラドが答えた。

「古いものはすべて交換しよう。竜の皮膚や翼を傷つけない、柔らかな毛のものを用意するんだ」

「承知しました!」

竜舎の者たちが一斉に動き始める。

竜の大きさや、翼の付け根や首周りなど、場所によって使いやすいものも必要だ。

新しいブラシを持ってきた者が、一頭の竜の背中をゆっくり撫でる。


ーー痛くない。

ーー気持ちいい。

ご機嫌の時の鳴き声に竜の声が聞こえた。


「ごめんな……全然気がつけなくて……」一人の乗り手が小さく呟いた。


ーーあやまるな。いつも丁寧にありがとう。これからも頼む


ルノアの顔が、ぱっと明るくなる。

「『あやまるな。いつも丁寧にありがとう。これからも頼む』と話されてます。よかった……」


その様子を見ていた竜たちの間から、次々と声が上がった。


ーーこれも言っていいのか?食事が遅い。訓練が終わってから、ずっと待っている。


「食事……?」ルノアが聞き返す。

竜の乗り手たちの顔が固まった。

「食事は、訓練が終わった竜から順番に……」

後クロリナラドが聞いた。

「どのくらい待つんだ?」

「混雑すると……長い時でニ時間ほど……」

「ニ時間……」ルノアは目を丸くした。竜たちは身体が大きい。当然、訓練をすればそれだけ体力も使う。それなのに、そのあと長い時間食事を待っている。


ーーお腹が空いている。

ーー疲れている。

ーー早く食べたい。

そんな声が次々と聞こえてくる。


「これは、順番を変えよう。余程の不満だったのだな。」

クロリナラドが静かに言った。

「訓練が終わった竜から、できるだけ早く食べられるように改善だな」

「しかし、全頭分を同時に用意するには……」難色を示す職員がいた。

「なら、訓練の時間をずらせばいい」

クロリナラドが答えた。

「訓練をいくつかの班に分ける。終わった班から食事を出せば、待ち時間を減らせるだろう」

「なるほど……!」

竜舎の者たちはすぐに話し合いを始めた。

食事の準備場所を増やす。

訓練の時間を少しずつずらす。

体格や食事量に合わせて、あらかじめ必要な量を分けておく。

その間も、ルノアは竜たちの声を聞いていた。

そして、ふと。小さな声が聞こえた。


ーー食事のあとは……。

子どもたちの訓練が大変。

ーー母は離れて休みたい。

ーーけれど、子どもたちだけでは危ない。


そこには何頭かの子竜と、その母親たちがいた。

ルノアは、子竜たちを見つめた。

まだ身体の小さな竜たち。

その隣には、疲れた様子の母竜がいる。


「子竜たちの訓練をする時間が必要なんだね」


ーーそう。子どもたちが強くなるために必要。

ーーもう子どもたちには訓練が必要。その間だけでも母から離れてほしい。

ーー母も休みたい。


「子竜の訓練?」

クロリナラドが尋ねる。

「はい。身体を動かせたり、走ったり、物を避けたり……」

クロリナラドも頷く。

「それなら今までもやってきたことだ。時期が遅かったのか……。

もうはじめてもよいのならはじめられる。母竜たちも、その時間はゆっくり休めるな」

「はい」


ところが、その時。別の竜の声が聞こえた。


ーーさっきも話したが……

休む場所が、落ち着かない。

ーー人が通る。

ーー声がする。

ーー大きな扉が開く。閉める音がするたびに目が覚める。

ーー休めない。夜もだ。

ーー通路をなんとかしてほしい。

ーーゆっくり眠れない。

皆の声が揃って聞こえた。


ルノアは竜たちが休んでいる場所へ視線を向けた。

確かにそこは、竜舎の主要な通路に面している。

世話係や乗り手が行き来する。

荷物を運ぶ者もいる。竜たちが休もうとしても、人の足音や話し声が途切れることはない。


「……ここを、静かにできますか?」

「完全に静かにするのは難しいかと……」

乗り手が答える。

クロリナラドが周囲を見渡した。そして、通路の先を指差した。

「この通路を閉鎖しよう」

「え?」

「竜たちが休む寝床だ。自分でもこの場所で眠れるか?私は無理だな……」

「ああ……すみません。私も眠れません。開閉音がかなり響きますから……ずっと熟睡できていなかったのですね。」

「こちら側の通路を使えば作業動線は保たれる。仕事は変わらない。必要な者はこの通路を使えばいい」

クロリナラドは穏やかに言った。

ルノアも頷いた。

「訓練をして、ご飯を食べて、それからゆっくり休む。皆と同じになりますね。良かった。」


ーー必要。

ーー休みたい。

ーー静かな場所がほしい。

ーー自由時間と休める時間がほしい。

ーー体の痛い所が治らない


「では決まりだな」

クロリナラドが微笑んだ。

「寝床に近い通路は閉鎖し、食事のあとは休息時間を設ける。

子竜たちは専用の訓練場へ。

母竜たちはその間、ゆっくり休めるようにする。

竜も休日を設けよう。」

「はい!」

竜舎の者たちが返事をする。すぐに新しい予定表が作られた。

今まで当たり前だと思われていたことが、一つずつ変わっていく。

やがて、最初の休息時間がやってきた。

通路だった扉がクロリナラドの魔法で警護と防衛の為の魔法壁となった。

竜舎が、驚くほど静かになった。

子竜たちは別の場所で訓練を始め、母竜たちは静かな場所で身体を横たえる。


ーー静か。

ーー眠れる。

ーーありがとう。


ルノアの頭の中に、いくつもの声が響いた。ルノアが小さく笑う。

その隣で、クロリナラドも穏やかに目を細めた。

「竜たちが望んでいたのは、特別なことではなかったのかもしれないね」

「……はい」

ルノアは静かな竜舎を見つめる。

その時。一頭の老いた竜が、ゆっくりとルノアのそばまで歩いてきた。

そして、その大きな頭をルノアの前へ静かに下ろした。


ーーありがとう。竜の森で番と一緒に眠れる日が来るとは……桃も感謝する。


その一言には、長い間我慢してきた竜たちの思いが詰まっていた。

ルノアはそっと、その頭を撫でた。

「こちらこそ……教えてくださり、ありがとうございます。また痛みが続くようなら教えてください。」

そっとルノアが、竜の頭から首の辺りに触れ、癒しの魔法をかけた。

竜は、満足そうに目を閉じた。


竜舎に、初めて静かな空間ができあがった。

その日を境に、竜同士の喧嘩はほとんどなくなった。

静けさは、竜たちの間に少しずつ穏やかな時間をもたらしていった。

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