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転生したのでレアアイテム集めたい…えっヒロイン退場してしまいました  作者: 5H


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332/349

332 竜の好物の桃

竜の森の奥へ進むにつれ、木々の間から柔らかな木漏れ日が差し込んできた。

エルナとラグナがゆっくりと地上へ降りると、周囲にいた竜たちが興味深そうにこちらを見つめる。


「ここで少し休もうか」

クロリナラドがそう言うと、ルノアは嬉しそうに頷いた。

「はい」

地面に降りたルノアは、ふわりと風に揺れる草原を見渡した。王城から遠く離れた森の中は静かだった。

聞こえるのは木々の葉が擦れる音と、遠くで鳴く鳥の声。そして時折、竜たちが喉を鳴らす低い音。

「……落ち着きますね」

「だろう?」

クロリナラドが魔空間から荷物を出した。

「ここは竜たちが自由に過ごす場所だからね。天空都市の安全のための結界防壁はぐるりと囲んであって、施設も見えないけどあるんだ。今日は昼食を準備してきたよ。」

「食事……」

ルノアが目を輝かせる。

「ああ……朝から料理長と相談しながら作ったんだ。」

クロリナラドが取り出した籠を開く。中にはパンやチーズ、燻製肉、野菜、それから色鮮やかな果物が詰められていた。

「わあ……果物もあります」

「ノアが好きそうだと思って……」

「ありがとうございます」

ルノアは嬉しそうに笑った。


ーー桃がある。

ーー桃だ。

ーー桃があるぞ!

周囲の竜たちが一斉に反応した。


「……」

ルノアが固まる。

「……ラド様」

「うん?」

「桃、人気なんですね」

「……ああ」

クロリナラドが苦笑する。次の瞬間には、森の奥から竜たちがぞろぞろと集まってきた。


ーーひとつくれ。

ーー我にも。

ーー我も食べたい。

ーーもっとないのか?


「ちょ、ちょっと待ってください」

ルノアが笑いながら桃を抱える。

「皆さんの分もあるんですか?」

「竜用に持ってきたものもあるよ」

クロリナラドが別の籠を魔空間から出す。

そこには人間用よりはるかに大量の果物が入っていた。


ーー少ない。

ーー全然少ないぞ。

ーーもっと欲しい。


「……」

ルノアが竜たちを見つめる。

「皆さん、さっきから桃が少ないって言っていたのは……」


ーーこれだ。

ーー我らはもっと食べたい。

ーー自分で採りに行きたい。


「なるほど……」

ルノアは桃を一つ手に取る。そしてクロリナラドを見る。

「竜の森には桃の木はないんですか?」

「あるよ。少し離れたところに」

「でしたら、皆さんで採りに行けばいいのでは?」


竜たちがざわめいた。

ーー採っていいのか?

ーー我らが?

ーー好きなだけ?


「……まあ、食べ過ぎない程度なら」

クロリナラドが答えるより早く、竜たちが一斉に翼を広げた。ばさり、と大きな風が巻き起こる。


「わっ!」

ルノアの髪が風に舞う。


ーー行くぞ!

ーー桃を採りに行く!

ーー競争だ!


何頭もの竜が森の奥へ飛び去っていく。あっという間の出来事だった。ルノアは呆然とその姿を見送った。


「……元気ですね。かなり足りなかったのですね。」

「あぁ……元気すぎるくらいだけどね。桃……改善しないといけない」

クロリナラドが空を見つめた。やがて遠くから、竜たちの嬉しそうな声が響いてきた。


ーー見つけた!

ーーこっちだ!

ーー大きいぞ!

ーーこれは我のだ!

ーー独り占めするな!


ルノアは思わず吹き出した。

「ふふっ」

「……楽しそうだね」

「はい」

ルノアは胸元に手を当てた。

「さっきまで、竜たちの不満を聞いていて……少し心配だったんです」

「心配?」

「皆さん、我慢していることが多いから」

ルノアは森の奥を見る。

「でも、こうやって自分で好きなものを採って、好きなように飛んで……。少しでも自由にできることが増えたら、きっと嬉しいですよね」

「そうだね」

クロリナラドは静かに頷いた。

「ノアが来てから、竜たちがずいぶん楽しそうだ」

「私が?」

「ああ」

ルノアが不思議そうに首を傾げる。

「私は何もしていませんよ?」

「それでもだよ」

クロリナラドは微笑んだ。

「話を聞いてくれる人がいる。それだけでも、竜たちにとっては大きいんじゃないかな」

「……」

ルノアは少し照れたように笑った。

「それなら、よかったです」


その時、森の奥から一頭の幼竜が戻ってきた。口には、少し傷のついた桃をくわえている。ルノアの前にぽとりと落とす。


ーーこれ、あげる。


「私に?」

幼竜がこくんと頷く。


ーーさっき話を聞いてくれたから。


ルノアは桃を両手で拾い上げた。

「……ありがとう」

胸の奥が、じんと温かくなる。

その様子を見ていたクロリナラドが、ふっと笑った。

「それは食べたほうがいいよ」

「はい。でも……」

ルノアは桃を見つめる。

「一緒に食べたいです」

「え?」

「せっかくもらったものですから」

ルノアが桃を切る。

「ラド様も、エルナも、どうぞ」


ーーよいのか?


「はい」

エルナが嬉しそうに桃を口にする。しゃくり、と瑞々しい音が森に響いた。

それを見ていたクロリナラドが笑い、ルノアもつられて笑った。しばらくして、桃を抱えた竜たちが次々と戻ってくる。


ーーエルナ!たくさん採れたぞ!ほら食べろ!

ーー我の桃が一番大きい!

ーー見ろ!

ーー我のほうが大きい!


竜たちの騒がしい声が森いっぱいに響き渡る。静かだった竜の森は、いつの間にか笑い声と竜たちの鳴き声で満たされていた。

ルノアはそんな光景を眺めながら、ふと思った。

……竜皇国に来ることができたら。毎日、こんな景色を見ることができるのだろうか。

そんな未来を想像すると、不思議と胸が高鳴った。

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