330 竜皇国竜舎の相談窓口
ーーところで聞いてほしい。
ーー我も言いたい。
ーー食事の時間が遅い。桃が少ない。桃を自分で取りに行きたい。少し自由の時間が欲しい。
ーー昼寝する場所が通路に近すぎる。音が気になりゆっくり休めない
ーー翼を手入れする道具が古い。痛い時もあるのに分かってもらえない。
ーー子竜が私の尻尾を引っ張る。子竜同志を遊ばせて。我々母親にも時々休める時間が欲しい
「……え?」
次々と声がルノアの頭へ流れ込んでくる。ルノアは目を丸くした。
「ラド様。竜たちは、ずいぶん色々な不満を抱えているようです」
「……聞こえてるの?」
ルノアは竜たちを見回した。
「はい。私、竜たちの言葉を皆さんに伝えましょうか?」
竜たちが一斉に顔を上げる。
ーー頼む。
ーーぜひ。
ーー我らの声を届けてほしい。
それからルノアは、一頭ずつ話を聞き始めた。食事のこと、寝床のこと、身体の手入れ、訓練のこと。中には他愛のない不満もあったが、竜舎の者たちが気づいていなかった問題もあった。
「……ノア」
クロリナラドが呆れたように笑う。
「竜舎に来る仕事が増えるんじゃないかな……」
「そうかもしれません」
ルノアは竜たちを見ながら答えた。
「でも、皆さんのお話を聞くのは楽しいです」
ーーならば、嫁いだらここへ来ればいい。
ーー竜舎で働けばよい。
ーーそして我らのお医者様になってほしい。薬がよくわからないから怖くて暴れたくなる
「竜のお医者様……?怖くて暴れる?」
「あぁ……よく暴れるやつが多いな。仕方ないから俺が毛布で包むような魔術をかけるんだ。」
ルノアの瞳が輝いた。けれど、すぐに少し寂しそうな顔になる。
「でも、私が通う学院には竜について専門的に学ぶところがありません」
「竜について学びたいの?」
「はい。もっと知りたいです。食事のことも、身体のことも、魔力のことも、病気のことも、生活のことも」
クロリナラドが少し考え込む。
「……それなら、竜皇国の魔術学院に竜共生医術科がある」
「本当ですか?」
「今は閉鎖されているけれどね。来学期から再開予定なんだ。竜の乗り手は、必ず卒業しないといけないからね。」
ルノアは白竜たちを見る。
「再開されるのでしたら……私、ヨーリアン帝国の学院を卒業したら、竜皇国で学びたいです」
エルナが嬉しそうに目を細める。
ーーそれがよい。
ラグナも静かに頷いた。
ーー我らも、望むぞ。早く学んでくれ!
ルノアは二頭の白竜を見上げ、満面の笑みを浮かべた。
そしてクロリナラドから提案される。
「魔術で補助をするからエレナに乗って散策しないか?竜皇国を見てほしくて……」
ーーいいな!行こう!
翼を大きく広げたラグナにはクロリナラドが、そしてエルナにはルノアが跨がり、二頭は竜皇国の上空へと静かに舞い上がった。
雲を抜けた瞬間、眼下に広がっていたのは息をのむほど荘厳な景色だった。
視線の先には、白亜の竜皇国王城が聳え立つ。
高く重厚な城壁が美しく調和し、その内側に目を向ければ、整然と並ぶ宮殿、広大な庭園の青々とした緑、そして城内を巡る水路が陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
風を切りながら空を滑空する巨大な竜たちの姿も混じり合い、竜が共生し、威厳を感じさせる壮大な世界が広がっていた。
「すごい……これが、竜皇国……」
目の前に広がる圧倒的な美しさに、ルノアは息をのんだ。
耳を掠める心地よい風、どこまでも澄み渡る大空、そして下界に広がる王城の美しい街並み。
全身を包み込むような躍動感と開放感に胸が高鳴り、瞳を輝かせながらその景色を夢中で焼き付ける。
隣を並走するラグナの背からクロリナラドが穏やかな微笑みを向けると、ルノアは満面の笑顔で頷いた。




