329 竜皇国の竜舎での出会い
今日は、竜皇国の竜舎への正式な招待状をもらい、クロリナラドど竜舎に向かっていた。
「あぁ……大きい竜!かっこいい!……竜舎!」
ルノアの瞳が竜舎へ足を踏み入れた瞬間、ルノアは思わず息を呑んだ。
「……たくさん、いる……」
広々とした竜舎の奥には、大小さまざまな竜たちが暮らしていた。ルノアの声に反応したのか、一頭が顔を上げる。すると、それにつられるように別の竜もこちらを向いた。
「ラド様、あの子たち……」
「うん。どうやら君に興味があるらしい」
一頭、また一頭と竜たちが近づいてくる。怖がる様子はない。むしろ、鼻先をルノアへ差し出し、何かをねだるように見つめている。
「魔力を、欲しがっているのですか?」
「そうだね。竜は人間の魔力の質に敏感なんだ。気に入った魔力なら、自分からもらいに来ることもある」
「少しだけなら……」
ルノアが手を差し出すと、一頭の竜が鼻先を触れさせた。淡い魔力が流れる。竜は嬉しそうに目を細めた。
「ふふっ……くすぐったい……」
すると、待っていた別の竜まで我先にと近づいてくる。
「ちょっと、みんな順番ですよ」
ルノアが笑うと、竜たちが一斉に喉を鳴らした。その様子を眺めていたクロリナラドが、ふと奥へ視線を向ける。
「……来たね」
ゆっくりと歩いてきたのは、二頭の白竜だった。
「こちらがラグナ。僕の竜だ。そして、隣にいるのがエルナ。ラグナの番だよ」
「白い……綺麗な竜……」
白竜の鱗は雪のように白いのに、光を受けると銀や淡い青に輝いている。大きな翼、長い角、そして澄んだ紫眼の瞳。
「白竜は珍しいのですか?」
「うん。数が少ない。王族はなぜか白竜に好まれて……今全員白竜なんだ。魔力への適性が高くて、ほとんどの属性を扱える。飛ぶことも、戦うことも、結界を張ることも、治癒もできる」
「そんなに?」
「白竜は万能竜と呼ばれているんだ。ただし、何でもできるからこそ、個体ごとに得意分野が違う。ラグナは戦闘と飛行、エルナは魔力操作と治癒が得意だね」
そのとき、ルノアの頭の中に声が響いた。
ーークロリナラドは、我らを褒めすぎる。
「え?」
ーーラグナ、それは事実だろう。
「今のは……ラグナ様とエルナ様ですか?」
「え?何か聞こえたの?」
クロリナラドが驚く。
「はい。はっきりと」
ルノアは二頭を見る。
「ラグナ様が、クロリナラド様は自分たちを褒めすぎる、と」
ーー我はそのようなことを言っていない。
ーー言った。
「ふふっ」
ルノアは思わず笑った。
「僕にも念話は聞こえるんだけど、ノアほどはっきりじゃないんだ。何となく意味が分かる程度で……」
ラグナが二人を交互に見る。
ーー祝福の違いだ。
今度はクロリナラドにも、その言葉の断片が届いた。
「祝福?」
ーークロリナラドの祝福は、竜と力を分かち、共に戦うためのもの。
ーールノアの祝福は違う。
エルナがルノアへ顔を寄せる。
ーールノアの祝福は、我らの魔力を受け入れ、整える。精霊や竜の声を、より近くへ届けるもの。
「だから、私には言葉が分かるのですね」
ーーそうだ。
ルノアがエルナの首へ手を伸ばす。
「では……私の魔力が、皆さんにとって美味しいということですか?」
ーーうむ。
ーーとても。
即答され、ルノアは嬉しそうに笑った。ところが、その直後だった。竜たちの声を聞きながら、ルノアがエルナの前に立つと、白竜は静かに彼女を見つめた。
淡い紫色の瞳が、まっすぐルノアを映している。
「エルナ様?」
呼びかけると、エルナは一歩だけ近づいた。そして、ルノアの胸元へ鼻先を寄せる。
「どうしたのですか?」
ルノアがそっと手を伸ばす。触れた瞬間、エルナの身体から温かな魔力が流れてきた。ルノアの中にある精霊王の祝福が、それに呼応する。淡い光が二人の間で揺らめいた。
「……きれい」ルノアが呟く。エルナはしばらくそのまま動かなかった。やがて、ゆっくりと頭を下げる。
「え……?」
ルノアが戸惑って一歩後ろへ下がる。
「ラド様……?」
クロリナラドの表情が変わった。
「動かないで、ノアにエルナが頭を下げている」
ルノアはエルナを見る。白い頭が、ルノアの目の前まで低く下げられている。
「これは……どういう意味なのですか?」
「竜が誰かに頭を下げることには、大きな意味がある」
クロリナラドは静かな声で説明した。
「竜は誇り高い生き物だから、誰にでも自分から頭を下げたりはしない」
ラグナが隣で低く喉を鳴らした。
「認めた相手にだけ、自分の身を預ける意思を示すんだ。そう……乗り手として認めるということだ」
ルノアの瞳が大きくなる。
「私を……エルナ様の乗り手に?」
その瞬間、頭の中へ声が響いた。
ーーそうだ。
ルノアは驚いてエルナを見つめた。
ーー我は、お前を選ぶ。我が背に乗ることを許す。我が翼と力を、お前に預けよう。
「エルナ様……」
ーーそして、お前の力を我にも預けてほしい。
ルノアの目に、嬉しそうな光が浮かぶ。
「私でよいのですか?」
ーーお前がよい。
迷いのない答えだった。
ーーお前の魔力は心地よい。
ーーお前の祝福は、我の中の魔力を穏やかにしてくれる。
ーーお前の声も、心も、我は好ましく思う。
ルノアはそっとエルナの頭に両手を置いた。
「ありがとうございます」
エルナが顔を上げる。その瞬間、白い光が二人を包んだ。
「……!」
クロリナラドが息を呑む。
「これは……」
光は一瞬だけ強く輝き、やがてエルナの白い鱗へ吸い込まれていった。
「竜の誓いだ」
クロリナラドが呟いた。
「竜の誓い?」
「竜が自ら選んだ相手を、乗り手として認めたときに結ぶ誓いだよ」
その横で、ラグナが低く鳴いた。
ーーよい番を持ったな、クロリナラド。
ーーこれほど良い相手を選ぶとは。我が番ながら、見事だ。
「……そうだね」
クロリナラドが笑う。
「君にもそう言ってもらえるなら嬉しいよ」
ーーお前は昔から竜を見る目だけは悪くない。
「だけは、って何?」
ルノアがくすりと笑う。
ラグナがクロリナラドへ視線を向けた。
ーーそして、よく竜の誓いを結んだ。
クロリナラドが少し照れたように目を逸らす。
「僕だって、ラグナを選んだときはそれなりに苦労したんだよ」
ーー苦労したのは我だ。
「ラグナ!」
竜舎に笑い声が響く。
ルノアが二人を見比べる。
「ラド様とラグナ様も、竜の誓いを?」
「ああ」
ーーあの頃のお前は、今よりずっと生意気だった。
「ラグナ!」
クロリナラドが苦笑する。
エルナはそんな二人を眺めてから、再びルノアへ頭を差し出した。




