327 クロリナラドのプレゼント
昼前、クロリナラドがマクアリール公爵家へやってきた。
毎年、マクアリール公爵家に仕える者たちが一堂に招待され、立食形式の昼間の食事会が行われる。
今年もまた、広い食堂にはたくさんの料理が並べられ、使用人や領地から訪れた者たちの姿で賑わっていた。
やがて、食事会の開始を告げるため、ラルフが皆の前へ立った。
普段の厳格な公爵としての姿とは少し違い、その表情には穏やかな笑みが浮かんでいる。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。今日はルノアの婚約者のクローも来てくれた。」
ラルフがそう口にすると、食堂にいた者たちは静かに耳を傾けた。
「今年もこうして、皆と食卓を囲めることを嬉しく思う。日頃からマクアリール公爵家を支えてくれていることに、改めて感謝したい」
その言葉に、あちこちから小さく頭を下げる気配があった。
「そして、今日が何の日かは、皆も知っているだろう」
ラルフが少しだけ笑みを深める。
「私の娘、ルノアの十一歳の誕生日だ!」
食堂のあちこちから、温かな拍手が起こった。
ルノアは少し驚いたように目を瞬かせ、それから恥ずかしそうに微笑む。
ラルフはそんな娘を見て、目を細めた。
「ルノアがこうして無事に十一歳を迎えられたのも、ここにいる皆がこの家を支え、守ってくれているからこそだと思っている」
一度、言葉を区切る。
「だから今日は、皆にも一緒に祝ってもらえればと思う。今日は仕事のことを忘れて、好きなものを食べ、好きなだけ楽しんでくれ」
少しだけ砕けた口調になる。
「騎士団も皆遠慮はいらないぞ。交代しながらゆっくりと食事を楽しんでくれ。料理は十分に用意してある。足りなければ追加させるからな」
その言葉に、食堂から小さな笑い声が起こった。
「では、ルノアの十一歳の誕生日と、ここにいる皆のこれからの幸せを願って」
ラルフがグラスを掲げる。
「乾杯」
「乾杯!」
一斉に声が上がり、グラスが軽やかに触れ合った。
こうして、マクアリール公爵家の食事会が始まった。
ルノアの誕生日を祝うために用意された料理を囲みながら、普段はそれぞれの持ち場で働く者たちも、この日ばかりは身分や役目を少しだけ忘れ、穏やかな時間を過ごしていく。
また今日は、マクアリール公爵家に属するすべての領民の家に、ルノアの誕生日祝いとしてオハギが配られる日でもあった。
夕食会は、ヴァリー伯父様とお父様、そしてクロリナラドの四人で、ゆっくりと誕生日を祝うことになっている。
昼の食事会を終え、クロリナラドと一緒に私室へ戻った。
クロリナラドが一つの包みを取り出した。
「ノア、改めて誕生日おめでとう。誕生日の贈り物だ」
いつもの堂々とした姿とは違い、なぜか少しだけ視線を逸らしている。
包みの中には、二つの品が入っていた。
一つは、竜皇国の神木と呼ばれている木を使った、手彫りの栞だった。
ヨーリアン帝国の魔術学院は、外部から持ち込める品が厳しく制限されている。そのため、学院へ持ち込むことを許されている栞を、余計な装飾を避けた手作りのものだった。
もう一つは、一枚の白いハンカチ。そこには、紫色の糸で「ルノア」と刺繍されている。ただし、その文字は少しばかり不揃いだった。
「……これは?」
ルノアが顔を上げる。
クロリナラドの耳が、わずかに赤くなった。
「……私が刺繍して、作った」
「ラド様が?」
「そうだ」
クロリナラドは、少し恥ずかしそうに笑った。
「刺繍は……初めてで……その、あまり得意ではないことがわかった。誰にも見せないでくれると嬉しい。栞は竜がノアを守る図柄に名前も掘った。こちらは思っていた通りに彫れた。自信作だよ。」
ルノアはハンカチと栞を両手で大切に受け取った。
「嬉しいです」
「……本当に?」
「はい。とても嬉しいです。一生、大切にします」
その言葉に、クロリナラドは耳を赤くした。




