326 ルノア11歳の誕生日
ルノアが十一歳の誕生日を迎えた朝、マクアリール公爵家の屋敷には、いつもより穏やかで温かな空気が流れていた。
母は、もうこの世にはいない。それでもルノアの誕生日が来るたび、亡き母が、生前に準備してくれた物を父が手渡してくれる。
今年は、手紙と小さな箱だった。
箱をそっと開けると、そこには一粒の魔石があった。
華美な装飾はない。けれど、ひと目見ただけで、それが途方もなく高価なものだとわかる。
母自身の魔力が込められた、澄んだ水色の魔石の首飾りだった。その隣には、丁寧に折りたたまれた手紙が置かれている。ルノアはそっと封を開いた。
『ルノア。お誕生日おめでとう。今年で十一歳になったのね。きっと去年より大きくなって、もっと可愛らしくなっているのでしょうね』そこから綴られるのは、母の願いだった。
『あなたは、今も真面目に、誠実に生きていますね。大変な勉強も頑張っているでしょう。困った人がいたら手を差し伸べられる、優しい女の子になっているのでしょうね』
そして最後には、いつも同じように。
『あなたのお誕生日を忘れたことは一度もありません。あなたが生まれてきてくれた日を、お母様はずっと大切に思っています。愛しているわ。ルノア、体に気をつけてね。そばにいてくれる大切な人と、笑顔多い毎日を、幸せに過ごしてね。』
ルノアは手紙を胸に抱きしめた。
「……お母様。ありがとうございます」
その声は少し震えていたが、顔には優しい笑みが浮かんでいた。
家族からの祝いの品が並ぶ中、次に届けられたのは竜皇国からの贈り物だった。
竜皇国国王夫妻からは、次男の婚約者であるルノアのために品が届けられ、さらにクロリナラドの兄であるルディノール王太子夫妻からは、一通の招待状が添えられていた。
竜皇国の竜舎への正式な招待状だった。
「竜舎……!」ルノアの瞳が輝く。
そしてもう一つ、箱の中には竜皇国の特産品である桃を使った菓子が何種類も入っていた。
「これは、今売られているものを全部お願いしたのです」
ルノアは嬉しそうに説明した。
「クロリナラド様に作って差し上げるお菓子を考えたいのです。そのためには、まず今どんな桃のお菓子が竜皇国で売られているのか、知っておきたいでしょう?」
父は思わず苦笑した。十一歳の娘は、婚約者への贈り物を考えるだけでは終わらないらしい。
「今売られていないお菓子を考えて、できれば新しい商品として売れるものにしたいのです」
そう言って、ルノアは桃のお菓子を一つずつ眺め始めた。
母から受け取った首飾りの魔石を大切に胸元へしまい、竜皇国から届いた菓子を前にして、次に作るものへ思いを巡らせる。
「クロリナラド様が喜んでくださる桃のお菓子を、考えなくてはいけませんね」




