323 ヨーリアン帝国魔術学院の校則 1
マクアリール公爵家の応接室。
ルノアとクロリナラド、そして竜皇国のフォル、ジュスト、サンセールの五人は、ヨーリアン帝国の魔術学院の校則を囲んでいた。
クロリナラドは卒業生のため、兄ルディノールから校則の説明を頼まれていた。
「まず、ヨーリアン帝国魔術学院には、建国以来の絶対的な鉄則がある。
『敷地内では一切の身分を排し、ただ魔術を学ぶ者として存在する』
学院内では身分を完全に捨てる。王族も公爵令嬢も関係なく、全員を下の名前で呼び捨てにする。
学院に入って身体測定をしてから、その時に全員、名前だけが浮かび上がる魔道具の名札をもらう」
フォルが校則を読み上げる。
「つまり、学院では私たちはただの学生ですね」
「そうだ。教師からも身分を考慮されない」
クロリナラドが懐かしそうに笑った。
「服装も全員同じ。学院指定の衣装を着用し、体型に合わせて自動調整される。リボンやボタンを勝手に変えることも、装飾品も一切禁止だ。」
「装飾で身分差を作らせないためですね」
ルノアがページをめくる。
「食事も徹底しています。学食では男女別々となり、場所取り禁止。男女別の列に並び、順番に、隙間なく座っていく。特別席も個室もなし。もちろん、お茶会も社交もない」
ジュストが続けた。
「食べ物や現金の持ち込みも禁止。従者や奴隷を連れてくることもできない。身の回りのことは自分でする」
「個人所有の魔道具も禁止だ。ただ、これは許可制でな。竜皇国の白銀髪と紫眼は有名だから、これは俺とルノアからの入学祝いだ。容姿の変幻は必ず必要だからな。左耳にかけてみろ」
そう言って、クロリナラドは三人にイヤーカフを渡した。
三人には話さないが、それには魔力切れや怪我の際の命の保全、誘拐された場合の追跡機能が備わっている。さらに、竜神様からの加護まで付いていた。
「ああ……ありがとうございます。兄上たち……つけましたよね? あれ? 見えなくなった?」
「はい。それが条件だそうなので、隠秘の魔法陣が付いています」
ルノアが説明する。
取り外しの魔法陣を確認しようとした三人だったが……取れない。
「取れないぞ。魔力制御に、隠秘に、勝手に付けられて……。卒業までに何とか頑張れ」
クロリナラドは、笑顔を浮かべた。
「兄上も俺も入学前に取ったけど……その後、別の制御を付けられてな。入学したら、付いていないと不安になった。付けたままが一番安心で楽になるぞ。思いっきりやれるからな。
とにかく、先に手を出すな。」
ジュストが話した。
「私たちは取り外すことはしないことにしました。
遊んでいた時間が長かったので……今は学びの時間が全く足りません。無事に学院の卒業の目処が立ちましたら挑戦いたします。」
「そうか……お前たちの判断を尊重する。冷静な判断だな。続けるぞ」
そう言って、クロリナラドは満足した笑顔で校則のページをめくった。
「テイムした魔獣も持ち込み禁止。財力や家柄によって、強力な魔獣を持ち込むことを防ぐためだ」
「福は神獣だからね。許可も取ったけど……学院長、驚いてた。拝まれちゃったよ。とにかく、王族の人から言ってもらってるから大丈夫だけど、ルノアの部屋でしか姿は出さないからね」
いい笑顔の福だった。皆は苦笑いを浮かべる。
「学生同士の物品売買や買収、職員への贈賄も禁止……」
フォルが目を通す。
「教師や職員への脅迫も厳禁。場合によっては、本人だけでなく、所属する家や国家まで処分対象になる。」
クロリナラドが淡々と答える。
「差別発言、身分をひけらかす行為、脅迫、いじめ、派閥争いも禁止。そして悪質な場合は……『不名誉な退学』」
ルノアが静かに読み上げた。
「退学理由も公式記録に残るのですね」
「そうだ。将来にも大きく影響する」
クロリナラドは頷いた。
「さらに試験の不正、課題の代行、遅刻、無断欠席も厳しく処分される。とにかく遅刻が厄介だ。敷地が広く教室が多いから迷うんだ。一年生は比較的配慮があるが半年すぎると選択授業でみなバラバラになるから自己管理能力を試される。とにかく時間厳守。
あと成績不振が続けば除籍。夜間の外出や、異性の居住区域への無断立ち入りも禁止、一回で退学だ。
だいたい入ってすぐわかると思うぞ。ああ……やはりいなくなったかと……半年で静かになる。後は皆、優秀だから、卒業論文を書いて卒業していく。俺たちは三年は在籍しないといけないからな……。
ある日突然、有事で国に戻るやつも多いから……。そんな時は無期限で休学できる。懐の深さもある学院だ。」
ジュストが冊子を閉じる。
「徹底しているな。家柄も財力も人脈も、学院では何の意味も持たない。だからこそ、評価されるのは自分自身の魔力と知識、そして努力だけだ」
クロリナラドは懐かしそうに微笑んだ。
「俺も在学中はただの学生だった。存分に学んでこい。楽しむことも忘れずに。ルノアのこともよろしく頼むな」
フォルが言う。
「愛し子様をお守りすることは当然のことです。ただ、私たちはあとがありません。卒業できなければ王城での就職ができませんから。何が何でも、必ず優秀な成績で卒業しなければなりません。認めてもらわなければ……やるしかない」
ジュストも頷き、サンセールは拳を握った。




