322 竜皇国 三兄弟の気づき
卒業論文の資料を探し、それぞれ机に向かっていた三兄弟だった。
やがて一冊の本を閉じたフォルが、弟たちを見つめた。
「ジュスト、サンセール。入学前に、少し話しておきたいことがあるんだ」
「どうしたんだ、兄上?」
次男のジュストが顔を上げ聞いた。
サンセールが答えた。
「ああ……僕も少し話したかった。マクアリール公爵家にきて勉強をはじめて……試験を受けてからから……。うん。ずっと考えていたんだ」
ジュストも続けた。
「今回の試験は、知識や魔法の技術を試すだけじゃなかったな。世界で実際に起きている問題を示して、その解決策を受験生自身に考えさせる内容だった」
「そうだな」
フォルも頷いた。
「しかも、まだ答えの出ていない問題ばかりだったね。合格するための試験というより、世界中から集まる未来の優秀な人材に、これからの世界について考えさせる試験だったんだと思った。」
サンセールが続けた。
「たとえ試験に落ちても、問題を読んで世界の現状を知り、自分ならどう解決するのかを考える。それだけでも意味がある試験だったんじゃないかな。私は、獣人の誘拐の問題は……知らなかったとはいえ心が苦しかった。獣人の地位の向上も私は自分の課題だと考えている。」
フォルは少し考えてから、静かに口を開いた。
「私たち兄弟に必要なのは、自分一人の強さだけではないと思うんだ。
私たちは竜皇国の古竜種で、長命の竜人だ。だからこそ、私たちにしかできない責任があるのではないかと考えるようになったんだ」
「責任……?」サンセールが問い返す。
「そうだ。これから魔術学院で学び、世界中から集まる優秀な人たちと交流する。そこで、未来の世界を一緒に守っていく『味方』と『仲間』と『同志』を見つけたいと思った。」
「世界を守るための仲間を作る、ということか?」
ジュストが尋ねる。
「その通りだ。自国を出たことで、私たちは『世界の理』を知った。
入試問題を通して、世界には多くの問題があることも知った。
我が国は『不干渉』の立場を取っているが、それでも『世界の理』の中心にいる国だ。だから私たちは、竜皇国の竜人として世界の人々を守る責任があると思うんだ」
「古竜種としての責任もあるんだな……」
ジュストが静かに呟いた。
「ああ……私たちは人よりもずっと長く生きる。
だからこそ、長い年月を生きて世界の歴史を見届け、竜神様とともに世界の安定を守っていく役目があると思うんだ」
フォルは窓の外に広がるタスワンズ湖へ視線を向けた。
「それに、この場所のことも忘れてはいけない。
マクアリール公爵家のタスワンズ湖には、精霊王様の大樹がある。ここは、傷ついた妖精や精霊たちが身を寄せる最後の砦だ。
彼らが傷を癒やし、再び自然へ帰るには、とても長い時間が必要になる」
「だから、長く生きる私たちが守るべきなんだな」
サンセールが言った。
「そうだ。世界には、妖精様や精霊様の力を正しく理解していない人たちもまだ多い。その誤解によって、自然が傷ついている場所もある。
世界の危機に気づいていない人たちに、どうやってこの事実を伝えるのか。
そして、同じ志を持つ仲間をどうやって増やしていくのか……。
私は、それをずっと考えている」
二人の弟は、黙って兄の言葉を聞いていた。
しばらくして、フォルが二人に向き直った。
「この美しいタスワンズ湖と豊かな自然を、そして妖精様や精霊様たちが安心して暮らせる場所を、私たちの手で永久に守り抜こう。
私たちは、そのための盾になるんだ」
ジュストとサンセールは力強くうなずいた。
「分かった。私も兄さんと同じ気持ちだ。自分たちの国だけではなく、世界を守る者でいたい」
「二人とも、ありがとう」
フォルは微笑んだ。
「私たちだけの力で、すべてを守る必要はない。人々と妖精様、精霊様、そして竜神様。そのすべてをつなぐ存在になればいい。
それが、私たち三兄弟のこれからの役目だと思うんだ」
「世界の平和と自然を守るために、か」
三兄弟は顔を見合わせ、静かにうなずいた。
その胸には、自分たちの国だけではなく、世界中の人々と自然を守るという、新たな決意が刻まれた。




