321 竜皇国三兄弟の入学準備
竜皇国王太子の父からのヨーリアン帝国魔術学院の入学までの準備、慣習は、三兄弟にとって、とても大変だった。
入学と同時に「卒業論文の提出」と「一年以内の移転魔法の取得」、さらには「丁稚奉公先への挨拶」、午前中には「マクアリール公爵家騎士団との演習」が組み込まれている。
あまりの超過密日程に三人は一瞬だけ深いため息を漏らしたが、誰一人として折れることはなかった。
それぞれの脳裏で意識が瞬時に切り替わり、修めてきた膨大な魔導の知識が駆け巡る。
午後の図書室での勉強時間に、先に口を開いたのは、長男のフォルだった。
「ヨーリアンの卒論はどう考えてる?私は地域の有効資源の活用を書くつもりだ。
酷暑の地域に寒冷地域からの移転魔法陣を敷いて永久的な『冷涼食物庫』を作ったり……
逆に寒冷地域には酷暑の地域から太陽熱を蓄える『蓄熱魔石』か同じく移転魔法陣利用で厳冬期における暖房に役立てたり……
民生の生活に直結した実用論文にするつもりだ」
長男フォルらしい、民を想う温かな構想だった。
続いて、三男のサンセールが静かな決意を秘めた目で言った。
「僕は『軍略的視点に基づく獣人の能力抽出、および人命守護のための詠唱短縮魔法陣の構築』を論文にするよ。
各種族の身体能力を戦術的に活かす軍略、軍師視点だね。一瞬の遅れが生死を分かつ結界魔術で、詠唱を極限まで削いだ『短縮魔法陣』を使って兵や民の命を守る方法を体系化してみたいんだ。戦術から考えた方が僕は頭に入りやすいから……参考になる歴史書や、戦術書はまだ読んでいないものがあるから勉強にもなりそうだ。」
実戦の緊迫感を知るからこその提案だった。極限状態での生存率を極限まで引き上げる戦略的考察に、彼の強い覚悟が滲む。
しかし、次男のジュストだけは腕を組み、言葉を詰まらせていた。論文という文章表現への具体的な着想に辿り着けずにいた。
頭を抱えるジュストを見かねて、フォルが穏やかに助け船を出した。
「ジュスト、その稀代の数理脳を活かしてみたらどうだ?『数理魔導工学による魔法陣の最適化、および演算処理の高速化による短縮魔法陣の自動構成』だ。
全ての事象を数式に置き換えられるジュストなら、現在公開されている『二百五十の魔法陣』の無駄を解析して、徹底的に余剰を削ぎ落とした『極限数式』に再構成できるはずだ。
魔法陣の処理速度が何倍にもなればみんな助かるし、私も参考にしたい。
……私にはジュストみたいな才能はないからな。それに、この理論ならサンセールの助けにもなるんじゃないか?」
「魔法陣を……数式で最適化するのか……」
ジュストの瞳に驚愕と、それを遥かに上回る圧倒的な知的興奮の光が灯った。
脳内で、これまで混沌として見えていた魔力術式が、透明な数理の刃によって美しく、完璧な形へと削ぎ落とされていく光景が明確に描かれる。彼の思考を駆け抜けた。
「そうだな……書けそうだ。完璧な数理魔法陣を証明してみせるよ」
先ほどまでの迷いは消え去り、ジュストは力強く宣言した。
三人はそれぞれの才能と絆で突破しようとしていた。




