320 竜神様に相談
ルノアとクロリナラドは、ヴァリアードから論文についての結果を聞き、話をしていた。
「このままで、本当に大丈夫なのでしょうか?」
ルノアが不安そうに尋ねる。
魔法契約書で魔空間の技術を共同研究とし、軍事利用を禁じる。それだけで、本当に争いを防げるのか。
「約束を破る者が出ないとは限らない」
クロリナラドも静かに答えた。
「長命な研究者であれば長く研究を続け、軍事利用を試みる可能性はある」
「……そうですよね」
二人はしばらく黙っていた。やがてルノアが口を開く。
「魔法契約書があっても、何かあれば……誰かが止めなければなりません」
ルノアは胸元に手を当てた。
「竜神様に、お願いするしかないのではないでしょうか……」
クロリナラドも理解した。
「竜神様に相談しよう。明日の謁見の時に……」
二人は顔を見合わせる。
そして翌日、定例の謁見で竜神教会の最奥の部屋に入った二人は、竜神様に尋ねた。
「竜神様……。私が書いてしまった論文のことなのですが……この力が戦争に使われたら、どうすればよいのでしょうか?」
「ルノア。大丈夫だ。よく学び、よく考え、頑張って書いたな。えらいぞ。うん。たしかに危険利用する者は出てくる。
でも残念ながら、ルノアの理論を正確に理解し、膨大な魔空間を長く研究したとしても、そのまま実行できる者は少ない。
何故か? ルノアは簡単にやってのけているが……かなり魔導技術が高度なのだよ。シェットやヴァリアード、竜皇国の王族、ラルフも簡単に出来るが……ヨーリアン帝国は、帝王と子供までだろう。孫は無理だな……。あと世界中に何人か優秀な魔術師もいるが、長命ではないしな……時間が足りないだろう。
年齢的に厳しいし、子供や孫もいない。ざっと見ても世界中で二十人もいないだろう。安心しては駄目だが……見守るから、頑張って勉強しなさい。
いざとなれば悪用した国と人物の記憶は消す。心配するな」
そう言って、竜神様はご機嫌でオハギを食べて緑茶を飲んだ。
「クロリナラド、ルノア……いいかい。
『新しい魔導技術で戦争利用する者が現れたなら、その者を危険分子と見なす。一人であろうと、国であろうと例外はない。この力によって、多くの命が失われることを私は望まない。私の名において、その者を止める。』
この言葉を後でリアムに伝えてくれ。
心配するな。ルノアはたくさん勉強をしなさい。
おやつもいつもありがとう。ルノアの優しい気持ちがいっぱいだ!」
それは、絶対的な抑止力となる言葉だった。
福ちゃんも久しぶりに大きくなり、ご機嫌に羽を羽ばたかせた。
「福もしっかり見守るからね。ルノア、クロリナラド。大丈夫だよ」
ルノアもクロリナラドも静かに頭を下げた。
「……竜神様、福ちゃん、ありがとうございます」
ルノアの顔に安心した笑顔が戻る。
『新しい魔導技術で、誰も傷つきませんように』
それが、ルノアの願った唯一のことだった。




