314 ルノアの入学準備1
マクアリール公爵家の私室で、ルノアは入学式までに提出する卒業論文と、魔法陣について考えていた。
入学式までに卒業論文を提出し、さらに百の魔法陣を、詠唱を省略できる「短縮魔法陣」へと書き換える修練を完了させること。
それが有事の際、自分や大切な人たちの命を守る盾になるのだと、竜皇国の王太子であるルディノールが子供たちに説いている姿を、ルノアも見ていた。
竜皇国へ嫁ぐ自分自身の優秀さを証明するためにも、ルノアは彼らと同じように、自らもその過酷な課題を成し遂げようと決意していた。
魔法陣については、現在この世界で発表・公表されている二百五十の魔法陣と、それらを自分なりに改良した短縮魔法陣を、すべて完了させている。
残るのは、卒業論文だけだった。
論文についても、以前ヴァリー伯父様から言われたことを思い出しながら、書き進めていた。
魔力切れを起こした際、ルノアは自分の魔力を貯めてあった魔空間から水流のように自身に流し込んで魔力切れを回避した。
世間では「魔力切れは命切れ」と言われ、普通の人間は魔力が尽きれば、そのまま天へ還るとされている。
魔空間の中にある魔力を水流に見立てることすら、誰も考えつかなかったと聞いた。
だが、ヴァリー伯父様は、それをその場でいとも簡単にやってのけた。
『新しい魔空間の使い方として魔術学会で発表すれば、歴史が変わる』
伯父様はそう言って、楽しそうに微笑んでいた。
『魔力タンクの仕事が減るな。ルノア、これを学院で発表しなさい。そうすれば最短で卒院できる』
その言葉が嬉しくて、ルノアはあの夜から論文を書き始めたのだ。
そして今日、ついに卒業論文の最後の章を書き終えた。
『本技術の確立により、社会における大規模な魔力供給を担う魔力タンクの需要や役割は、減少すると考えられる。
個体が自らの魔空間を作り出し、そこから直接、流体状の魔力を引き出すことが可能となれば、エネルギー効率の飛躍的な向上が見込めるためである。
本成果は、これまでの魔術理論の根底を塗り替える可能性を秘めており、学会に発表することで、魔術史の新たな扉が開かれることになるだろう。
今後は本手法の安全性をさらに高め、学院の規定に基づく卒院要件を満たすものとして、ここに提言する。』
最後の一文字を書き終えた瞬間。
ルノアは、ふと手を止めた。
そして、自分自身が抱えるある問題に気がついてしまった。
「……これ、発表したら……」
魔術学園長から以前言われたことを、今さらながらに思い出したのだ。
『現在、カーナリアン王国では、魔空間を開くことのできる方が三十名にも満たないと認識しております。他国を含めても、その人数は少ない。ですから、人前では絶対に魔空間を開きませんように……』
ルノアは、論文へ視線を落とした。




