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転生したのでレアアイテム集めたい…えっヒロイン退場してしまいました  作者: 5H


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304/349

304 追いかけっこ

リオンブラン王国のシルバーライオン獣人たるレオン国王と、その運命の番である耳長兎獣人のマリア王妃は、過密な政務を完璧に片付け、お忍びの休暇としてマクアリール公爵領のタスワンズ湖へとやってきた。

かねてより約束していた、広大な敷地での「追いかけっこ」を楽しむためである。 そして元隠密のネネを心配しており、様子を確認したかったのだ。


ふたりが湖畔を訪れた際、タスワンズ湖の工場で働いている領民たちが、仕事終わりの森を抜けるとき、少し離れた場所からネネが見送っている姿を見かけた。そして領民が森を抜けた際振り返り、ネネに頭を下げている微笑ましい光景をみてふたりは安堵した。


その滞在中、竜皇国の国王の孫であるサンセールから、公爵家のラルフを通じて、二人への「謝罪の場」を設けてほしいという切実な申し入れがあった。

サンセールにとってルル王女は「運命の番」。

しかし、獣人のルル王女はより強い者「婿入りの戦い」の勝者と結婚すると公言している。


対面の席に現れたサンセールは、かつて自身が放った愚かな獣人差別発言、未成年であるルル王女の腰を強引に抱こうとした不敬、そして獣人の方々や精霊様、妖精様を苦しめる竜人特有の香水を用いた無配慮を心から悔いていた。


「魔術学院ではルル王女に決して近づかず、無理な番の契約も結ばないと誓います。すべては精霊様、妖精様、そして獣人の皆様への不徳が招いたこと。深くお詫び申し上げます」

サンセールは二人の前で、深く深く頭を下げた。さらに顔を上げ、毅然と告げる。

「六年後に行われる、ルル王女様の『婿入りの戦い』に私も参加いたします。それまで日々精進し、天に還るまでの日々も努力することを王妃様に誓います。

誠実な男として恥じぬ者となりますので、どうかお許しください。申し訳ございませんでした。」


その真摯な謝罪の態度に、レオンの鋭い眼光が和らいだ。

レオンはふと、サンセールが以前、ロア、ライ、リキが参加して行った「旗取りの訓練」で、見事に勝利を収めた作戦について尋ねた。

「どのような策で彼らを下したのだ?」

尋ねられたサンセールは、悪戯っぽく微笑んで首を振った。

「勝つための軍略を他者に漏らしてはならぬと、両兄上様から厳しく叩き込まれております。どうかご容赦を……」

秘密を厳守するその徹底した姿勢に、レオンはますます気に入った。

「良い心がけだ。体調に留意し、早く特級クラスへと昇級しろよ」


しかし、隣に座るマリアの静かな声が、部屋の空気を凍らせる。

「サンセール殿、『婿入りの戦い』あなたが想像する以上に過酷なものとなります。敗れれば生活のすべてが覆る。獣人の世界は弱肉強食。敗者が辿る結末は悲惨そのものです」

マリアは深く息を吐き、悲痛な光を宿した瞳で真っ直ぐにサンセールを見つめた。

「たとえ首尾よく婿の座を射止め、このタスワンズ湖のような安住の地を設けることができたとしても、それで終わりではないのです。獣人の社会には、書面には決して記されることのない『暗黙の慣習』が存在します。

ひとたび王女を娶れば、次なる強者たちから常に戦いを挑まれる。そして……もしもあなたがその戦いに敗北したなら、勝者はあなたの妻だけでなく、その領地も権益もすべてを奪い去るでしょう」

サンセールは息を呑んだ。だが、マリアの言葉はさらに過酷な現実へと踏み込んでいく。

「それだけではありません。最も恐ろしいのは、残された血統の行方です。新しき勝者がその地を支配したとき、前の相手との間に生まれた子供たちは、誰よりも一番最初に『天に還される』ことになります。

他者の血筋を徹底して排除し、自らの血筋のみで純化させるため、幼き命は一瞬にして刈り取られるのです」

部屋を支配したのは、あまりにも重苦しい沈黙だった。リオンブラン王国において、それは公に語られることのない暗黙の理であった。しかし、一国の王妃として、そして一人の母親として、戦いに敗れ、全てを失って狂い、あるいは絶望の中で我が子を奪われていった数多くの者たちをその目で見てきたマリアだからこそ、その警告には重みがあった。

「弱き親を持ったとき、一番の被害を被るのは、何も罪のない子供たちなのです。獣人の掟とは、それほどまでに冷徹で容赦がありません」

理不尽とも言える獣人の世界の掟の厳しさに、サンセールは内心で激しく驚愕し、背筋に冷たい汗が伝わるのを感じていた。

負ければ、己の命が消えるだけではない。

愛するルル王女も、将来生まれてくるであろう我が子たちの命すらも、すべて奪われてしまうのだ。

サンセールは、自身の両手を指先が白くなるほどに拳を固める。


「……決して、負けません。ルル王女も、我が血を引く命も、この身が滅びるその瞬間まで私が守り抜きます。必ず、勝ち続けます」


退路を断った若き王子の誓いは、タスワンズ湖の静謐な水面のように深く、そして決して揺らぐことのない決意となった。



リオンブラン王国のレオン国王と王妃マリアは、広大なタスワンズ湖の湖畔を縦横無尽に駆け抜けていた。

約束していた「追いかけっこ」に、ふたりは国を治める王としての威厳を脱ぎ捨て、まるで無邪気な子供のように興じている。

鋭い爪を完全に隠した巨大なシルバーライオンが野太い咆哮を冗談めかしてあげながら、地を蹴って猛然と迫る。

しかし、狙われた白き耳長兎は、まったく臆することなく、ひらりと軽妙な跳躍でその巨体を鮮やかにかわしてみせた。

足元で土煙が舞い、ふたりの楽しげな息遣いと、草の匂いが初々しい風に乗る。草まみれになりながら響きわたるふたりの愉快な歓声は、穏やかな湖の水面にキラキラと弾けていた。


やがて、ひとしきり走り回って満足したのだろう。

激しい追いかけっこは、穏やかな休息の時間へと移り変わっていく。

ゆっくりと足を止めたレオンは、その大きなシルバーライオンの温かな巨体を木の根元の地面に横たえた。

そして、自慢のふさふさとした胸元に、小さな兎を優しくお腹へと抱え込む。

安心しきったように丸まる妻を包み込みながら、レオンは愛おしそうに、大きな舌でその小さな背中や耳のまわりを丹念に毛づくろいし始めた。

マリアも心地よさそうに身を委ね、互いの体温と深い絆を確かめ合っている。


微笑ましく温かい一幕。

少し離れた木陰から、その光景をネネは気配を消してそっと遠くで見守っていた。

彼女は絶対の忠義と静かな愛情を込めて、ふたりの平和なひとときを隙なく警護しているのだった。


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