302 竜神教会の聖地
一呼吸の静寂の後、クロリナラドは再び周囲を見据え、世界の頂点たる竜皇国国王陛下代行として、動かしようのない事実と進むべき道を冷徹に告げた。
「この国は本日より、常に世界中から狙われ続ける最も危険な最前線となったのだ。タスワンズ湖の竜の素材を求め、隠密や冒険者たちが今後も確実に押し寄せるだろう。いつでも狙われる聖域の隣で、自らの力だけで防衛を成し遂げねばならない。甘い言葉に惑わされている猶予などない。
この国にはそれを乗り越える優れた実績がある。
ヨーリアン帝国の魔術学院への合格率が、ヨーリアン帝国に次いで世界第二位であることは分かっているはずだ。
徹底した防衛の鍛錬を行うとともに、その優れた教育地盤をさらに強化せよ。
世界中から『全知の教育先進国』と称賛するだろう。
そしてこの地は、何人たりとも侵してはならない尊き国、『竜神教会の聖地』として、誰もが守るべき国へと発展していく。
だからこそ、常に危機感を持ち、自らの手と血の滲むような鍛錬によって、この国を死守し発展させると信じている」
王子の放った最後の一言が、広間に重く響き渡った。
世界の頂点たる竜皇国の威光、そして事実のみを突きつけられた王族と貴族たちは、誰一人として言葉を発することができなかった。
クロリナラドは冷徹な眼光を最後に一度だけ周囲へ向けた後、隣に立つ最愛の番、ルノアへと視線を移した。その瞳には、先ほどまでの峻烈な厳しさはなく、深い慈しみだけが宿っている。
彼が優しく手を差し伸べると、ルノアはその大きな手に自らの手をそっと重ねた。
二人が歩みを進めると同時に、恐怖と敬畏に満ちた貴族たちは誰一人として立ち上がることもできず、その行く手を遮る者などいなかった。
静まり返る喝采の地を背に、クロリナラドはルノアを厳かに、そして誇らしくエスコートしながら、堂々と退場していった。
二人の姿が消え、広間の中心へ、国王ロバートは堂々と歩み出た。
「皆の者、今の言葉をしかと胸に刻め。我が国は今、かつてない危機と大いなる変革の刻を迎えている。
我らがなすべきは、今すぐ甘えを捨て、血の滲むような鍛錬を重ねて自らの力で国を守り抜くことだ。
そして同時に、竜神様の教えを厳格に守り、どこまでも誠実に生きねばならぬ。
タスワンズ湖の精霊様や妖精様、そしてこの自然を守り、竜神様の化身を守護する国民として、世界に恥ずかしくない国へとなっていこう。
一歩も退かぬ強い意志を持ち、皆でこの国を築き上げるのだ」
国王の毅然とした宣言は、居並ぶ貴族たちの心に新たな覚悟を宿し、王国が次なる新時代へ歩み出す確かな一歩となった。
その翌日、世界中の主要な新聞の第一面は、この天地を揺るがす大特報で一色に染まった。
長年、不干渉の立場を貫く「竜皇国」が、その長い歴史の中で初めて、人族のカーナリアン王国と正式な友好国としての盟約を結んだという事実である。
世界は突如として現れたこの強大な結びつきに驚天動地した。
紙面ではそれだけに留まらず、マクアリール公爵領が世界で初めて、あらゆる国家の軍事介入を拒絶する「不可侵地域条約」を竜皇国との間に締結したこと、そして何より、同公爵家の長女ルノアが、竜皇国第二王子の「運命の番」であると公式に発表された様子が克明に報じられた。
番の存在は単なる婚姻を超え、絶対的な魔力の絆を示す奇跡である。
この吉報に諸外国の王室や民衆は沸き立ち、大陸全土に新たな国際秩序の幕開けと、平和への大いなる希望が告げられた。




