30 祖先は執着質?
「宰相殿。私もヴァリアードのように、ラルフと呼んでも大丈夫かな?
私のこともクローと呼んでほしい。
もう公の場に出ることもほとんどないからね。
できれば、皆の前でも堅苦しい口上はやめて、目礼だけで済ませてほしいと、親しくなった者たちには伝えているんだ」
クローはそう言って、ラルフとヴァリアードを見た。
「それにしても、『番』という言葉は国によって捉え方が違うが、カーナリアン王国は友好的な方だな。
番だろうがなんだろうが、花嫁の父親からすれば……その視線になるのは当然だろうが」
クローがラルフの視線を見て、失笑する。
「ヴァリアードも、睨むなよ」
「睨んでいない」
即答するヴァリアードに、クローはさらに苦笑した。
ラルフも小さく息を吐き、姿勢を正す。
「クロー様でお願いします。
私のことはラルフで構いません。
それで……運命の番だと、ルノアはどのタイミングで理解するのでしょうか?
今後について、クロー様がどのようにお考えなのかもお聞きしたいです。
私たちには分からないことばかりですから、話せる範囲で教えていただけると助かります」
「会えば、すぐに分かるよ」
クローは穏やかに答えた。
「どちらかの反応に分かれるからね。
その時の二人の反応を見て、今後のことを決めればいい。
……いつかは、私もラルフ殿を『お義父上』と呼びたいのでね」
クローが楽しそうに笑ったあと、ふとヴァリアードへ視線を向ける。
「それにしても、ヴァリアードは分かっていたが……ラルフも、祖先に竜人がいるな。
それだけじゃない。
竜人と人族、そして竜人と獣人の血が混じっている」
「……分かるのですか?」
ラルフが驚いて尋ねる。
「ああ。
大体、魔力の多い者は祖先を辿れば竜人の血が入っていることが多い。
魔力の質……と言えば分かりやすいかな。
私は、その者がどのような家系の血を受け継いでいるのか、感覚的に分かるんだ」
クローは二人を見比べながら、ゆっくりと話を続けた。
「ヴァリアードには、攻撃を得意とする火竜。
癒しに優れた翠竜。
そして、浄化を得意とする水竜の血がある。
それから……鷲か梟か。
翼の大きな獣人の血も入っているな」
「……」
ヴァリアードは黙ってクローを見つめた。
クローは今度はラルフへ視線を移す。
「ラルフは、万能の白銀竜。
魔力の多い青緑竜。
護りに秀でた地竜。
それから、狼の獣人の血もある」
「私にも……そんな血が?」
ラルフは思わず自分の手を見た。
「二人とも瞳は水色だが、似ているようで魔力の系統はまったく違う。
これほど多くの竜人の血が受け継がれている家系は珍しいよ」
クローは少し楽しそうに二人を見た。
「竜人の血が濃い家系には、祖先返りが起きることもある。
そして、執着や独占欲が強く出る者も多かったはずだ。
だから……」
クローはヴァリアードとラルフを交互に見た。
「ここにいる三人は、お互いに厄介な相手だと、本能的に理解しているんだろうな」
「……否定できませんね」
ラルフが苦笑する。
「私もだ」
ヴァリアードも渋々認めた。
その時、クローがふと顔を上げた。
「ああ……ルノアがこちらへ向かってくるぞ。
お茶の用意をしよう。
緑茶がいいだろうな。
私も茶菓子を出そう。
ヴァリアードも、持ってきたお茶菓子を出してくれ」
「分かった」
ヴァリアードが魔空間へ手を伸ばす。
ラルフはその様子を見ながら、これからルノアを迎えるために、静かに気持ちを整えた。




