29 娘の優秀な運命の番
ヴァリアードとラルフは、思わず苦笑いを浮かべた。
ラルフは「運命の番」と聞いて、確かにルノアを会わせたくないという気持ちが強くなっていた。
それでも今は、十歳の娘に「感情だけで決めず、今の状況を冷静に話し合おう」と諭されている。
そして、これが神託なのだと言われれば、やはり竜神様はすべてを見てくださっているのだと、深い感謝が込み上げてくる。
「不敬を承知で申し上げますが、正直なところ、ルノアを会わせたくないという気持ちは強いです。
ですが、すでに問題が起きてしまっています。
私たちだけでは、ルノアが望む静かな生活を送らせてあげることが難しいと判断しています」
ヴァリアードは、今日の昼過ぎにこの屋敷へ来てから起きたことを、クローにすべて話した。
ルノアが魔石を作れることが知られれば、本人が望んでいる静かな生活を送ることは難しくなる。
二人で頭を抱えていたところへ、クローが現れたことも含め、今の状況を順を追って説明する。
「なるほど。問題は解決できる。
まず、魔石はカーナリアン王国では作らない。
竜皇国で作成し、
『竜皇国の竜神様の愛し子が作成している』と発表する。
愛し子本人は静かな生活を望んでいるため、詳しい情報は一切開示しない。
竜皇国は他国から干渉されることもないし、魔術協会も関与できないからね」
クローはそう言って、さらに続けた。
「五Sランク以上の魔石は一般には流通させない。
スタンピードが頻発する地域へ、竜人や竜に秘匿して運んでもらえばいい。
そこで魔石を使って浄化し、世界の安定に貢献してもらう。
必要以上に魔石を流通させる必要はない。
そんなことをすれば、魔石を巡って戦争になる可能性があるからね。
竜神様がおっしゃっているように、一番大切なのは、ルノアが望む静かな生活を守ることだ」
クローはそこで少し考えるように間を置いた。
「二年後には宰相を退いて、ルノアと一緒に暮らす時間を楽しめばいい。
冒険者として活動するのもいいだろう。
帝国へ留学するのもいい。
その時はヴァリアードにも世話になればいい。
まだ十歳だ。
今のルノアには、結婚に幸せを見いだせないかもしれない。
『運命の番』なんて、足枷にしかならないと言われるかもしれないな」
そう言って、クローは二人に視線を向けた。
「二人の見た目については、私が整えれば問題ない。
私にも、ルノアの魔力の色は見えている。
必要なもの以外は、私がもらおう。
……いいか?」
クローは二人に向かって、さっと両手の掌を開いた。
そして少し手前へ引くようにしてから、指をぐっと握り込む。
すると、ルノアから溢れていた過剰な魔力の一部が、クローの掌へ吸い取られていった。
不思議なことに、不快感はまったくない。
ラルフはすぐにヴァリアードへ視線を向けた。
先ほどまで感じていた違和感が消え、いつもの表情に戻っている。
それを確認して、ラルフはほっと息をついた。
一方、クローは自分の掌を眺めていた。
「これは……いいな」
クローの古傷が、跡形もなく消えていた。
「古傷まで消えた。
身体も驚くほど軽い。
こんなに身体の調子がいいのは、生まれてから初めてかもしれないな」
クローは嬉しそうに笑った。
「魔力からルノアのことが分かってしまうのではないか、という心配も大丈夫だ。
竜皇国の天空都市は魔素が多い。
そこで魔石を一日も置いておけば、竜皇国の魔素を多く含んだ魔石になる。
多少はルノアの魔力を感じ取れるかもしれないが、それだけで本人を特定することは難しいだろう。
高魔力者といっても、ヴァリアード、宰相殿、帝王、そしてその子供たちや孫たちがいる。
それに、魔石の取引を始める前に、不干渉と秘匿義務を魔法契約書に盛り込めばいい。
契約に反して話した者が出た場合は、魔石を流通させなければいいだけだ。
ルノアのことは、徹底して秘匿する。
すでに竜神神殿の神官長を通して、関係者全員との魔法契約書も交わし終えている。
今のところ、情報が漏れる心配はないだろう」
クローはさらに、これからの生活について具体的に話し始めた。
「この二年間は、この家と竜皇国の竜神神殿、あるいは竜皇国王城を簡易移動門で繋いでおけばいい。
帝国へ行くことになったら、帝国の家と竜神神殿も簡易移動門で繋げばいいだろう。
月に一度くらい、竜神様へ参拝してもらう程度なら、ルノアの負担にもならないはずだ。
魔力糸や変形する魔石についても、
『竜神様からの神託によって、愛し子が生み出したものだ』と伝えれば、皆も受け入れるだろう。
出せるものは、出していい。
ルノアが、いつか自分で商売を始めたいと言うかもしれないからね。
最初から何もかも制限する必要はない。
ルノアには自由にさせて、実際に流通させる前にこちらで確認すればいい。
私は、それで十分だと思う。
……どうかな?」




