3 公爵令嬢の婚約
「今日のことで、お話があります。お父様。
サリド殿下は、私には興味がないご様子でした。
一度テーブルにいらっしゃいましたが、高位貴族である私を無視されたのです。そのうえ、アテリアナ伯爵家のマリナ様に声をかけていました。
礼儀や所作も、まったく身につけていらっしゃいません。第二王子で、しかも婿入り先を探しているにもかかわらずです。
あの場には高位貴族の方が他にもいらっしゃいました。王族であれば、挨拶や相手への配慮は必要だと思います。
自分の置かれている状況を、十二歳にもなって理解していないなんて……。
能力的にも不安があります。王家は大丈夫なのでしょうか?
どうして、あんなに横暴な態度なのでしょう。
お父様が良いと思う方は、他にいらっしゃいませんか?
私は、公爵家と私のことを大切に考えてくださる方がいいです」
父は、驚いたように目を見開いた。
「ルノア。いつも学園での殿下の様子を、たくさん聞かせてくれていたじゃないか。
今日だって、ようやく殿下と話せると楽しみにしていたんじゃなかったのかい?」
父は少し寂しそうに笑った。
「エミリアには、『ルノアが一番に望む人を、お婿さんにしてあげて』と言われて、お前を託されたんだ。
だから、お前が決めていいんだよ」
母とそっくりな娘のためなら、望む相手との婚約まで整えてしまう力を持つ父だった。
「お父様。
宰相として、そしてマクアリール公爵家当主として、一番安全で、国のためになる相手を選んでいただければ、私は大丈夫です。
でも……サリド殿下だけは、絶対に無理です。
恥ずかしいのですが……お母様に昔読んでもらった絵本に出てくる王子様に、そっくりだったの。
私は、見た目だけで選んでしまっていました。ごめんなさい。
王妃様とも少しお話ししましたが、ドレスや宝石の話ばかりで、あまり物事を深く考えていらっしゃらないように感じました。
それを王家が平然と放置しているのなら、国そのものがもっと危険なのではないかと思いました。
王妃様の所作も、とてもひどかったです。
あの方が国の王妃だと思うと……恥ずかしくなりました」
父は口を挟まず、ただ黙って私の話を聞いていた。
きっと、この家にも王家の者が入り込んでいるはずだ。
なぜなら、公爵家の令嬢である私を処罰するのであれば、かなり重要な書類や証拠がなければ、魔界の森ENDにすることなどできないはずだから。
「お父様。
公爵家の従者たちは大丈夫でしょうか?
私も早く跡取りとして、公爵家の仕事を手伝いたいです。
まずは、従者の管理について教えてください」
父の目が大きく見開かれた。
そして、みるみるうちに涙が溜まっていく。
「あぁ……気づいてしまったんだな。
分かったよ、ルノア。
お前は、エミリアのように優秀なんだな。
……大きくなったなぁ。
娘に諭されるようでは、父親としていかんな」
父は、静かに涙を拭った。
「私は、見て見ぬふりをしていたかったのかもしれない。
すまなかったな、ルノア」
そして、少しだけ間を置いて尋ねる。
「もうルノアの中には、婚約を結びたいと思う方がいるのかな?」
「はい。候補の方はいます。
ただ……相手の方が何と言われるのか、想像もつきません。
私は、お父様と同じように、誠実で、国と領民を大切にしてくださる、勤勉な方と結婚したいです。
私、いつも言っていたでしょう?
お父様と結婚したいって」
父は、何も言わずに私を優しく抱きしめてくれた。




