293 両親と叔父の言葉
国王陛下の言葉を受け、今度はルディノールが言った。
「我が国の王族が通るべき『慣習』に基づき、これから始まる三年の丁稚奉公の条件を伝える」
父の厳格な口調に、三兄弟は一様に背筋を伸ばした。
「まず、奉公先への移動についてだ。最初の一年間のみ、国が管理する『移動門』の使用を許可する。
この一年で『移転』の術式を完全に己のものとし、二年目からは『移転』移動のみとする。」
王太子は三人の息子たちを静かに見据えた。
「陛下からも一人の帯同の許可があったが、学院では自力で生計を立てることに苦しんでいる者が多いんだ。支援し救い上げるという意味も含まれている。」
母である王太子妃も、案じるように言葉を添える。
「あなた方が竜皇国の王子であることは、術式により一切口外できないようになっています。
見た目も許可を取り学院では、白銀髪、紫眼は皆にはわかりません。
ただ、不測の事態や誘拐を防ぐため、陰ながら最低限の警護はついています。用心は怠らないように。」
再びルディノールが言った。今後の明確な課題を突きつけた。
「入学式を迎える前に、まずはそれぞれの奉公先へ一度ご挨拶に赴くこと。
さらに、卒院資格を取得するため、入学式に卒院提出用の論文を仕上げて提出しなさい。
同時に、卒院資格の百の魔法陣を、自分なりの詠唱を極限まで省略した『短縮魔法陣』へと書き換える修練を完璧に完了させておくのだ」
ルディノールの瞳に、深い実戦的な光が宿る。
「このことを伝えるのは、実は私も、クロリナラドも、父上も、代々引き継がれ聞いていたのだ。
だから私も同じように三人に伝えようと思っていた。
講義を受ける前にこれらすべてを、完遂しておくことこそが、将来、何らかの有事が起きた際に必ずお前たちの命を救う最大の盾となる。……良いな、三人とも。我が身を守り、そしてまわりをも、守る覚悟で挑みなさい」
「「「はい。」」」三人が応えた。
今度はクロリナラドが続けて言った。
「私からも、我が国の慣習に基づいた極めて重要な警告を伝えておく。お前たち自身の『魔石』をギルドや市場で売却することは、いかなる理由があろうとも厳禁だ」
クロリナラドの鋭い言葉に、三兄弟の表情が引き締まる。
「我らの魔石が秘める力は、人族にとっては常軌を逸した数値を示す。それを売れば、魔石の出所を追われ、必ず国内外の悪徒から命を狙われる引き金となる。その代わり、魔石は竜神様への奉納品として国が引き受ける。
平民が命がけで手に入れた魔石を売った時と同等の、硬貨をその場で渡す。
今回の丁稚奉公は、自力で生き抜くこそが目的だからな。正当な報酬の全額は、無事に学院を卒院した後に一括で引き渡す」
クロリナラドは一度言葉を区切ると、具体的な指示を授けた。
「入学式までに街の『冒険者ギルド』で資格を取得し、さらに『商業ギルド』で独自の蓄財口座を作りなさい。これは将来、お前たちに必ず必要となる。……まぁ、大丈夫だとは思うが、申請書にうっかり自らの『真名』を書かないようにな」
ラド様はそう言って、少し苦笑いを浮かべた。三兄弟も苦笑を返す。
「登録名は、学生で平民の『フォル』『ジュスト』『サンセール』とする。時間がある時は、実力を示す等級を『A級』まで上げなさい。ただし、その上の『S級』になってはならん。
『S級』は有事の際にその国の軍部から強制招集を受ける義務が生じるからだ。
それは我が竜皇国による他国への不当な干渉とみなされ、国際問題に発展しかねん。……ただし、必要に応じてスタンピードや予想外のS級魔獣の討伐は一介の平民の義勇兵として剣を振るうことは許可する」
クロリナラドの理路整然とした、しかし実戦的で細やかな配慮に満ちた助言を、静かに頷くのだった。
三兄弟は助言を受け止め、同時に一礼した。




