291 罪人の行方
跡形もなく消滅した、あの闇ギルドの根城。
瓦礫すら残さぬ凄惨な光景を目にした者は誰もが、竜皇国の恐るべき制裁によって、一人残らず「天に還された」のだと確信していた。
だが、彼らは決して、天に還ったわけではない。
周囲に「完全に消滅した」と信じ込ませることが「竜皇国には絶対に手を出すな」「不干渉の意味を忘れるな」という、外敵を寄せ付けない絶対的な抑止力として、何よりも機能していたのだ。
もともと竜皇国は竜神の指示に従い、その絶対的な力ゆえに、世界の調和を乱す大罪人たちを天に還してきた。竜神にとって、一番容易なことであったからだ。
しかし、その冷徹な竜神の前に、かつて「竜神様の愛し子」であったタナカ公爵家の長女、ユキが現れた。
竜神が珍しいほどの命の輝きを持つ彼女に目を奪われた。そして、もう一人の愛し子の竜皇国第二王子クロリナラドが、ユキの「運命の番」だったからでもある。
共に仕事をしていく中で、ユキは命があっけなく奪われていく現実に強い抵抗を示した。
竜神の瞳を真っ直ぐに見つめて、こう語りかけた。
「竜神様。これほど容易に命を奪い、それで終わりにされてはなりません。天に還して終わりにするなど、最も意味のないことです。不当に命を奪われたご遺族の感情を思えば、犯した者の命を対価として求めるのは当然です。
ただ私は、重い罪を重ねた者ほど長く生かし、長く考えさせ、長く奉仕させるべきだと考えます。
彼らの命をもう一度、別の形で世の役に立つように反省を促し、新たな働き手としての刑期を与えましょう。
この世界の、真に人手が足りずに困っている過酷な場所の担い手にするのです。
決して強制ではなく、長い時間をかけて学び、自らの罪の反省と後悔に真っ直ぐに向き合わせなければなりません。
当然、二度と悪事を働けぬよう、容姿を変え、枷をつけて厳重に管理はいたします。
ですが、ただ苦しめるだけでは人は変わりません。
過去の辛い思い出に心が囚われすぎると、また心を病んでしまいます。ですから、その原因となった記憶だけは、魔術で少しだけ忘却させてください。
そうして心を少し軽くした状態で、罪は一生忘れないように、生きてもらうのです。
今度は誰かから奪うのではなく、誰かのために働き、罪の対価を支払う。
そうして本物の善人へと導いていくことこそ、私たちの信じる教えの姿です。
ただ祈り、『あなたの心は救われました』と口先だけで告げるのでは足りません。本当の救いとは、犯した過ちと向き合い、自他の命の尊さや自分が生きる意味を、罪から学ぶことです。
一人ひとりが自分の頭で必死に考え、悩みながら生き抜く。
その中で『生きたい、誰かの役に立ちたい』という前向きな気持ちが芽生えてこそ、初めて本当の反省と償いと救いになるとおもいます。」
このユキの言葉は、それまで「生か死か」の二者択一しか持たなかった竜神の心に、激しい衝撃を与えた。
だからこそ作られたのが、天空都市の魔牢であった。
罪人たちは誰とも会えず、毎日六割の魔力を吸い取られながら、部屋に置かれた聖典と五言語音声辞書だけで孤独に過ごす。
自分がどう罪と向き合い、どう生きればここを出られるのか。それだけを、何年、何百年という恐ろしいほどの時間の中で、何度も繰り返し考えさせられる。
誰かを救う神官へと生まれ変わる覚悟が決まるまで、この試練からは決して逃れられない。
この誰も知らない、ある意味ではどんな刑罰よりも恐ろしい救済の仕組みは、かつてユキが語った気高い願いが、竜神の圧倒的な力によって形になったものであった。




