287 ヨーリアン帝国魔術学院 魔導選抜試験4
三兄弟の戦いに続き、その護衛であり将来の執務長候補でもあるギルト、バルト、ダルトの三人にも「実戦魔導試験」の出番が順に回ってきた。
対戦の場に上がった彼らが静かに魔力を練り上げた瞬間、演習場の空気が一変した。
「世界の理」を守る竜皇国の王族を影から支え、守り抜くために鍛え上げられた本物の防壁。
その底知れない魔力の密度と凄まじい威圧感が、会場全体へと容赦なく吹き荒れた。
「な、なんだあの禍々しいまでの魔力の気配は……!」
「平民の付き人じゃなかったのか……? 次元が違いすぎる!」
対戦相手として立ち位置に立った平民や貴族の受験生たちは、彼らの放つ圧倒的な膨大な魔力の前に、ただ一歩も動けなかった。頭から魔力で押さえつけられ、命の危険を感じ震え上がった。
「棄権します。」皆、顔色悪くそう言うしかなかった。
実戦の舞台に立つことすら許されないほどの「格の違い」を本能で悟ったのだ。
結果、対戦相手は恐怖のあまり次々と戦意を喪失。ギルト、バルト、ダルトの三人は、一歩も動かず、一回も魔術を放つことなく、六戦すべての相手が試合前に「棄権」を選択するという、異例の六戦連続不戦勝を成し遂げた。
ただ静かに佇むだけで敵をねじ伏せた、未来の執務長たちの強靭なる圧倒的強さ。
彼らが静かに舞台を降りると、会場には驚愕と恐怖による重い静寂だけが残されていた。
フォル、ジュスト、サンセールは、ただの試験会場で知り合ったばかりの男たちの桁外れの強さに、純粋に魂を揺さぶられていた。
長男フォルは、男の強靭な魔力の余韻を見つめながら、静かに拳を握りしめた。
(これほどの力を秘めていながら、誰にでも平等な男なのだな。私の問いかけにもしっかりと答えてくれた。)
次男ジュストは、数理の指摘の男が、周囲の魔素を一瞬で凍りつかせた威圧感を、脳内で瞬時に数式へと置き換えていた。
(魔力密度は、私の計算を遥かに超える防御壁として機能している。緻密な無駄のない魔法陣がすごい。しっかりと見てみたい。)
ジュストは静かに目を光らせ、術式を書き換える速さ、魔力消費の少なさ、そして無駄のない立ち姿。目が離せなかった。
そして三男サンセールは、男の圧倒的な佇まいに、只々唖然とした。
(何なのだ……彼のあの底知れない技術に追いつくには、まだまだ何もかも足らない!悔しい……)
サンセールの瞳には、さらに限界を超えて研ぎ澄ますための絶対の闘志が宿る。
試験会場での偶然の出会いから始まった、強靭なる本物の実力者たちとの縁。
彼らから最高の刺激を受けた三王子は、互いに力強く視線を交わした。
数日後、「魔導技術試験」の結果に「魔導学力試験」の成績が合算され、最終的な合格順位が発表された。
騎士団長から「学力試験を優先させろ! 焦るな!」と激を飛ばされ、死に物狂いで机に向かっていたサンセールであったが、やはり魔法陣の鍛錬に時間を割いた分、学力はギリギリの滑り込みであった。
結果は「下級合格」。
特級推薦枠という輝かしい魔導技術の成績に対して、少し不釣り合いな結果に、サンセールは苦笑いするしかなかった。
対して、兄たちは違った。
実技推薦こそ不戦勝によって逃したものの、二人は魔導学力試験において、他の追随を許さない圧倒的な点数を叩き出し、揃って「特級合格」の座を手中に収めていた。
「やはり、兄上たちには敵わないな……」
試験結果の掲示板を見上げ、サンセールは小さく呟いた。
だが、その瞳に曇りはない。
三兄弟は確かに、ヨーリアン帝国魔術学院の門を共に叩いたのだ。




