285 ヨーリアン帝国魔術学院 魔導選抜試験2
昼食休みが終わり、大きな声が会場に響いた。
「これより、午後の部『魔導技術試験』を開始する。全員、第一演習場へ集まれ!」
魔導技術試験でも、まず最初に「基礎の型」を審査される。
三人が無駄のない綺麗な姿勢で、極めて精密に基礎の魔力回路を構築していく。
「型ばかりが綺麗で魔力が感じられないな。大したことないな……大丈夫か?五十の申告数……あぁ……考査上がりか」
と侮るような声が聞こえる。
そう話す者は、どれほど完璧に統御されているか真の恐ろしさに気づいていない者だ。
「あぁ……。凄い制御技術だ。実戦で対戦相手にならないことを祈ろう……。恐ろしい程の魔力だ。」
やはり魔力を感じる者もいた。ヨーリアン帝国の帝王の孫たちだった。
自分たちより魔力が上の者にあったことが無かった。
帝王様と同等の魔力を持っている自分たちにどこか慢心していたのだと気がついた。初めての経験に背中が寒くなった。
試験会場には、本人の申告した構築できる魔法陣の数が頭上に現れる仕組みとなっている為、フォル、ジュストは五十、サンセールは十五と前回の考査時の申告数が表示された。
「おいおい。魔法陣十五でよく受けるな……恥ずかしくないのか?平民なら世間を知らないから仕方ないか……考査上がりは、怖いもの知らずだな。」
大声で笑う者がいた。
フォルとジュストは全く相手にせず、サンセールだけは優しい笑顔をその男に見せた。
次は受験生同士が戦う「実戦魔導試験」だった。
二箇所の対戦場所にフォルとジュストが其々の相手と向き合った。
「はじめ!」
貴族子息と思われる対戦相手たちが大きな魔法陣を描きはじめたが、すぐにフォルとジュストは無駄な呪文をすべて省いた「短縮魔法陣」を瞬時に、わずか一手で展開し、ほぼ同時に
「ドォン!!!」と激しい音が響き、相手が魔術を完成させるより圧倒的な速さと威力の一撃が炸裂した。
何が起きたかも分からぬまま吹き飛ばされ、
「勝負あり!」一瞬で勝負が決まった。
サンセールの対戦相手は、先程考査上がりと大きな声で笑っていた隣国の高位貴族の血を引く少年だった。
仕立ての良い豪華な魔導衣を纏い、周囲に威圧的な魔力を振りまいている。
しかし、その態度は徹底して傲慢だった。
サンセールが、一歩前に出て右手を胸に当てる「戦士の礼」を綺麗に捧げたとき、相手は鼻で笑い、視線すら合わせようとしなかった。杖をもてあそび、早く終わらせろと言わんばかりに顎をしゃくる。
戦う者への敬意を完全に欠いたその態度に、観客席の何人かが眉をひそめた。
(感情を向ける必要がない。勝つだけだ。)
サンセールは騎士団長の言葉を胸の中で反芻した。
怒りも焦りも、すべては無駄な雑念。深く息を吸い、吐 き出す。肩の力が抜け、体内の魔力が完璧な循環を始める。
試合開始の合図が響いた瞬間、相手の周囲に一気に十数の魔法陣が展開された。派手で高出力の炎の術式。数の暴力で一気に押し潰す算段だろう。
だが、サンセールは動じない。すべての魔法陣を「裏」に隠せる短縮魔法陣として体に叩き込んできた。
少年が大きな身振りで杖を振るい、猛火が放たれる。その瞬間、サンセールの足元で、外からは見えない極小の短縮魔法陣が、思考の速度で発動していた。全方位を警戒する
「守り」の術式。最小限の魔力障壁が、サンセールの直前で炎の直撃を完全に霧散させる。
「なっ……!?」
相手が目を見開いたときには、すでに勝負は決していた。 サンセールは無駄な動きを一切せず、ただ一歩、踏み込んだだけだった。
攻撃と同時に守りを固め、攻撃の後にさらに追撃の一手を隠す。
炎の煙に紛れ、サンセールが「裏」から展開した第二の短縮魔法陣が、相手の無防備な足元を正確に捉えていた。
「ドォン!!!」と地を揺らすような衝撃。
相手の足元の重力が一瞬で数倍に跳ね上がり、彼は防御の術式を展開する暇さえなく、泥の地面へ這いつくばった。
首筋には、いつの間にか練り上げられたサンセールの目に見えない風の刃が突きつけられている。 手技はわずか三つ。
「勝負あり!」試験官の声が響いた。
ただ静かに、圧倒的な洗練さをもって、サンセールは一撃で相手を仕留めた。 驚きに静まり返る演習場。
サンセールは静かに風の刃を消すと、地に伏せるに手を差し伸べる。しかし相手は手を取らなかった。
立ち位置に戻り向かって、再び、戦士の礼を捧げた。
その凛とした佇まいに、相手は顔を真っ赤にしながらも、憎しみの表情で睨みつけた。




