282 ラルフの報告
その頃ラルフは、サバスに案内された王族の私室にいた。
国王夫妻やルディノール王太子夫妻とともに、持ち込んだイモオハギとゴマセンベイをつまみ、緑茶を飲みながら談笑していた。
一通り試食が落ち着き、それぞれの感想を聞き終えたところで、ラルフが静かに口を開いた。
それは、身分を隠して過酷な試験を突破し、本試験に向けて努力を続ける三人の王子たちの報告だった。
ラルフは彼らのこれまでの反省と、ひたむきな奮闘の様子を、丁寧に語り始めるのだった
「皆様。三殿下はマクアリール公爵家での厳しい教育を経て、驚くほど精神的な成長を遂げております。」
ラルフはまず、三男サンセールの覚醒について話し出した。
「サンセール王子は、運命の番を思い出し、マリア様が施した上級忘却魔法を、三兄弟で協力し話し合いながら解呪することに成功いたしました。
現在は、ルル様の横に並び立つ本物の勝者となるため、寝る間も惜しんで学び、四言語で戦術と戦法を体に叩き込んでおられます。
先日、内密に訪れていたリオンブラン王国の双子王子が率いる隠密との『旗取り実戦』が行われたのですが、サンセール王子は公爵家の二軍を見事な指揮で率いて軍師を務め、無敗だった彼らから初めての勝利をもぎ取りました。
今は、五十の魔法陣の習得と学力試験の過去問対策に、自ら時間を惜しんで全力で学ばれています」
「……本当か!? 私が学院に在学していた頃、内密で行われた竜皇国の隠密とリオンブラン王国の隠密対決でも、一度も勝てなかったのだぞ! 素晴らしいな……その時の戦法は聞いたか?」
ルディノール王太子が驚愕し、身を乗り出して問いかけた。
「いえ……。試合の後、ライ殿下もサンセール王子に直接質問されておりましたが、『次に勝てなくなると困りますから』と冷静に断られたそうです」
その答えを聞いたルディノールは、驚きから一転して、頼もしそうに深く笑った。
「ははは! 手の内を簡単に見せない強さまで身につけたか。ただ力を振るうだけだったあの子が、そこまでの軍師になるとはな……」
次に、次男ジュストの心境の変化を伝えた。
「他者の感情を理解することが苦手なジュスト王子ですが、『兄を支える』と自ら舵を切ったと思われます。
四言語では国と国との折衝の場を想定しながらフォル王子と共に過去問対策の問題集を題材によくお話し合いをされております。
現在は己の知識を、兄のため、そして国のために役立てようという強い意志を感じます。
学院卒業資格の百の魔法陣を早々と取得し、フォル殿下の練習相手となり取得のコツを惜しみなく伝えております。
サンセール殿下の学力不足にも丁寧な課題ごとの問題集を作り、私から『そのまま問題集として販売をしたらどうか?』とお話いたしました。本当に多才の才能をお持ちです。」
最後に、長男フォル王子の抱く深い後悔と、竜人としての責任の目覚めについて語った。
「そしてフォル王子ですが……彼は今、これまで以上に深く後悔しております。
かつて行っていた政務の手伝いは、ルディノール殿下の直しが入ることを前提に、言われた通りの署名をしていただけだったと気づかれたようです。
『自ら考えるための貴重な勉強の機会を自ら逃していただけ』と痛感したのでしょう。
フォル王子は過去問対策の問題集から何千の問題を解きながら最善を深く考えた解答が多く、卒論が直ぐに書けてしまいますね。
そしてただお一人だけ、お気づきになられました。
『世界の理』を。そして自ら真剣に考え、お二人にいつの時期にお伝えするのが良いかと考え始めておいでです。」
特権に甘んじていた過去を捨て、泥にまみれながらも其々の思いを胸に歩み始めた三兄弟。
ラルフからの真摯な報告を静かに聞いていた国王夫妻とルディノール夫妻は、息子たちのあまりの変貌と頼もしい成長ぶりに、深く深く感じ入り、その胸に熱い安堵と未来への期待を膨らませるのだった。




