279 竜神様との面会 地脈の安定とは
今日は月に一度、ルノアが「竜神様の愛し子」としてラド様と一緒に面会する日だ。
今回も竜皇国に三日間滞在し、ラド様と共に、「魔石作り」を行う予定になっている。
さらに今回はお父様も、竜皇国の国王様と謁見するために同行する。
玄関ホールの中央に敷かれた敷物の上には、大量の荷物がうず高く積まれていた。
今回持参するのは、期間限定の「イモオハギ」と、今後販売を予定している「ゴマセンベイ」だ。
すでにセンベイの売り上げは世界中で拡大している。これもお父様にとっては想定内だったようで、センベイを見ながらニッコリと微笑んでいる。
現在、マクアリール公爵家の商会には世界中から支店設立の要請が殺到していた。
だが、これ以上はお父様の負担が大きくなりすぎるため、今後の展開に少し頭を悩ませている。
北大陸と西大陸への出店計画はあるものの、現地を任せられる信頼できる伝てがない、というのが実情のようだった。
また、今回はフォール祖父上様とマール祖母上様のマスの干物も持参する。
塩味とミタラシのタレに漬け込んだ二種類の味付けで、少し炙ってから、手で割いて食べる。お酒のお供にぴったりだ。
お二人だけでは食べきれないマスを領民や商業ギルドに卸し、加工品として特産化することで、お二人の新たな収入源にしてはどうかとルノアが提案したのだ。
もちろん、すでにお二人には、十分な蓄えがあることは知っている。
しかしお二人からは、「自分たちの財産はすべて竜皇国へ渡したい」という話を聞いていた。
この干物は数量限定ではあるものの、日頃から付き合いのあるタチハナ王国、カーナリアン王国、リオンブラン王国、そして今後世話になるヨーリアン帝国の帝王様へ、そして竜神様への献上品として贈る手はずになっている。
出発の準備がすべて整った。 艶やかな敷物の中心に描かれた、円状の幾何学模様が、全体を金色に染め上げるように眩しく発光した。
従者達はお見送り姿勢で一斉に頭を下げた。一瞬で姿が見えなくなった。
到着した場所にラド様が待っていた。
「お義父上、ノア。いらっしゃい。お義父上も体調は大丈夫ですか?
陛下や兄上が三王子の様子を聞きたいとお待ちです。
ノアは毎日、イヤーカフで話してはいるけど……やっぱり会えるのは嬉しいね。まず先に竜神様の面会をしよう」
お父様はサバスに案内され陛下が待つ私室に向かい、私はラド様に案内され、竜神教会の最奥にある部屋へと移転した。
そこは相変わらず、どこまでも真っ白な世界。
澄み切った空気が心地よく、空間には座り心地の良そうな雲の椅子がふわりと浮いている。
「クロリナラド、ルノア、待っておったぞ! いつもありがとうな。……おおおっ、これはマクアリール公爵領の甘いイモだな?
俺が『食べてみたい』と言ったから作ってくれたんだな! センベイも、マスもあるな!ああぁ……早速みんなでいただこう。福も、クロリナラドも、ルノアも、サラたちも一緒にな!」
サライがサッと雲の机に其々の緑茶と真ん中に山盛りに積まれたゴマセンベイを置いた。
「ふう……この緑茶の心地よい渋みが、イモの贅沢な甘さをきれいに引き立ててくれる。最高の組み合わせだ。
そしてこのゴマセンベイも香ばしくてたまらんぞ!
パリッとした歯ごたえの後に、ゴマの豊かな香りが鼻を抜けていく。うむ、お茶がいくらあっても足りん!
マスはまた後でいただこう!
こうして一月に一度、大切な愛し子たちと美味いおやつを囲む時間こそが、この地脈を安定させ総べる俺にとって一番の癒やしなのだからな!」
にこにこの竜神様が言った。
「竜神様……。あの地脈の安定とは……?」
ルノアが聞いた。温かかった空気は、その問いを境に、静かで厳かなものへと変わった。
竜神様は緑茶の器をそっと置くと、愛し子であるルノアとクロリナラドを優しく見つめ、深く、重々しい声で語り始めた。
「地脈とは、この大陸の下を流れる『魔素の流れ』だ。クロリナラドが我の声を聴いて地脈が乱れた場所を確認し、必要に応じてお前たち二人の魔石を入れ、安定と調整を行う。
その調和を保つことで、魔素が淀むことなく大地を流れ潤している。
それこそが、本来の地脈の安定なのだよ」
竜神様は一呼吸置き、視線を壁の向こう、遠くへと向けた。
「だがな、理不尽な争いや戦い、悪意、悲しみや苦しみといった負の感情、さらに不必要な魔術の乱用は、自然を壊し、妖精様や精霊様たちを傷つけ、地脈に大きな歪みを生み出してしまう。
今、世界のあちこちで不自然な魔素がため込まれ、地脈が激しく波打っておるのだ。
この淀みが限界を迎え、一気に噴き出すことこそが、魔物の大暴走……スタンピードの本質なのだよ」
竜神様は静かに、しかし深い慈愛を込めて二人を見つめた。




