275 魔導適性考査 魔術学力試験
ヨーリアン帝国にあるマクアリール公爵家が所有する、外国人要人特区の屋敷。
そこからヨーリアン帝国の魔術学院へと続く朝の道は、これから始まる大いなる試練を予感させるように、どこか張り詰めた空気に満ちていた。
三兄弟は、これまでの甘やかされた特権階級の衣服をすべて脱ぎ捨て、
父上や叔父上のクロリナラドがかつてそうしたように、市井に馴染む質素な衣服を身に纏っていた。
粗末な布切れの一枚一枚が、これから自らの力だけで世の理を学ぶ日々を象徴しているようだった。
一歩、また一歩と学院の門へ近づくにつれ、周囲の景色は世界中から集まった受験生たちで埋め尽くされていく。
今日は、ヨーリアン帝国の魔術学院への入学の為の「魔導適性考査」が執り行われる日だ。
試験会場は、受験生たちの熱気と緊張感に包まれていた。
竜皇国の王子としての身分を隠し、質素な衣服を纏ったフォル、ジュスト、サンセールの三兄弟は、静かに順番を待っていた。
しかし、その静寂を破るように、周囲の平民の受験生たちが彼らの衣服を見下し、調子に乗って絡んできた。
「おいおい、どこの田舎から出てきたか知らねえが、そんなひ弱な体で帝国の試験に受かると思っているのか?」
「魔力の気配もろくに感じられん。場違いな者が来るところではないぞ」
以前の、自分たちならば、このような身の程知らずの平民どもには即座に激高し、その場で叩き伏せていただろう。
だが、マクアリール公爵家で本物の危機感と礼節を学んだ今の彼らは、驚くほど冷静であった。
サンセールは兄たちと視線を交わすと、挑発を完全に無視し、冷ややかな、しかし凛とした佇まいでその場をやり過ごした。
午前はまず「魔術学力試験」が行われた。
試験開始を告げる重々しい鐘の音が、広大な会場に響き渡った。
「これより、午前中の魔術学力試験を開始する。解答を始めよ!」
試験官の声と同時に、一斉に用紙をめくる音が波のように広がった。
配られた試験問題の第一頁に目を落とした瞬間、先ほどまで調子に乗って三兄弟をあざ笑っていた平民の受験生たちの手が、ぴたりと止まった。
そして定刻通りに魔術学力試験は終わったが、会場は受験生たちの絶望の声で包まれていた。
「どこが間違っているのかなんて、教科書に載っていなかったぞ!」
「計算が難しすぎる。あんなの宮廷魔術師が解く段階の問題だ!」
周りの平民たちが頭を抱える中、竜皇国の三兄弟は、静かに席を立った。
粗末な服を着た三人の顔には、少しの焦りもなかった。 マクアリール公爵家で叩き込まれた厳しい教育に比べれば、この試験はあまりにも簡単だった。
三人が出した解答用紙には、それぞれの得意な視点から書かれた「完璧な正解」が並んでいた。
試験問題の中の一問は
「中級攻撃魔術『烈火の咆哮』の図には、魔力の流れを悪くする無駄な場所がある。その場所を指摘し、正しく直しなさい」とあった。
フォルは、戦いでの使いやすさを考えた。魔力を無駄にため込んでいる場所と、過剰に方向を制限している場所の二箇所を瞬時に発見した。
戦いでは何より素早さが大切であるため、最短で魔力が流れるように直す方法を書いた。これで発動が三割早くなり、少ない魔力で最大の威力を出せるという、実戦的な答えだった。
ジュストは、計算と理論で攻めた。一つ目の無駄な輪が魔力の流れを邪魔して、抵抗を上げていること。
二つ目の安全弁が、魔力を弱める原因になっていることを論理的に証明した。
これらを最も美しい一つの数式に書き直すことで、魔力の無駄を完全にゼロにするという、隙のない答えを導き出した。
サンセールは、魔術の本質を見抜いた。勢いよく炎を放つ魔術において、遠回りな通り道や、冷やすための仕組みは、魔術本来の力を無くしてしまうと指摘した。
無駄な制限をなくして、魔力を一気に放出させることで、使う者の精神的な負担と魔力も減らすという、深く賢い答えを書いた。
彼らにとって、それはできて当然の基本だった。
「……少し、簡単すぎたな」 廊下を歩きながら、フォルが低く言った。
「公爵家の不意打ちの試験は、この三倍は複雑だったな」 ジュストが同意した。
「私は穴埋め問題が苦手と分かりました。基礎の部分をもう一度しっかりやり直します。」 サンセールが小さく答えた。
その気品ある姿は、粗末な服を着ていても高貴に見えた。 彼らの言葉を聞いた周りの平民たちが、嫌そうな視線を向けてくる。
「おい、聞いたか? あの貧乏人ども、簡単すぎたと言っているぞ」
「強がりだ。どうせ何も書けなかったのさ」
男たちが悔しそうに吠える。だが、三兄弟はもう彼らを見ようともしなかった。ただの雑音として、完全に無視していた。




