273 リオンブラン王国ルル 魔術学園卒園 1
リオンブラン王国の全土を揺るがした国王陛下の生誕祭。救出の遅れを民に深く詫び、涙ながらに語りかけた国王の演説映像は、今も多くの国民の胸に深く刻まれていた。
傷ついた同胞の平穏を人々が竜神様に祈るなか、王女ルルもまた、国内の大患が取り除かれた新しき朝を静かに迎えていた。
ルルは、侍女のムクを伴い、小さく姿を変えた隠密蛇族のネネを手首に巻いて、卒園式の為に久しぶりに学園へ登園した。
教室の扉を開けて中に入ると、一番初めに声をかけてきたのは、蛇族のルセポンブラン侯爵家の双子のアキとサキの二人であった。
「ルル様……お手紙ありがとうございました。オハギも美味しくいただきました。あの時はお会いすることもできずに領地へと帰り、ご挨拶もできず、お返事も差し上げられず、本当に申し訳ございませんでした」涙目を浮かべる双子に対し、ルルは優しく微笑みかけた。
「大丈夫よ。私も本当に会いたかったの。次の学院も一緒に行けると聞いて、とても嬉しかったわ。
……実はね、母上様の療養先であったカーナリアン王国のマクアリール公爵家で、ルノア様と仲良くなったの。
ネネのつぶらな瞳が可愛いって、公爵家の皆様がとても気に入ってくださってね。双子の貴方たちと会えるのを楽しみにしてると、お手紙も頂いているのよ。
これはマクアリール公爵家の商会が売り出した新商品のセンベイよ。ご家族の分もあるから、皆様で食べてね」
ルルはニッコリと笑い、異国の珍しい包みを二人に手渡した。
次に挨拶へやってきたのは、建築業において国内最大を誇るカストール侯爵家の長女メイルと、その親戚筋にあたるブランカストール伯爵家のルーピナであった。
「お久しぶりでございます。お元気なお姿を拝見できて安心いたしました。ご卒園おめでとうございます。……ですが、もうルル姫様にお会いできなくなると思うと、大変寂しゅうございます」
二人は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。元々、海狸族は働き者で控えめな種族である。
そして非常に家族思いの性格をしており、今回の獣人売買の一件についても、親からしっかりと事情を聞いて事の本質を理解しているのだと思えた。
「ありがとうございます。こちらは先ほどもお話しした、マクアリール公爵家の新商品のセンベイです。皆様でお楽しみくださいね」
ルルは彼女たちにも温かく手渡した。
さらに、低位貴族の者たちが全員続いて挨拶に訪れた。
「私どものような身分からお声掛けすることは不躾であると承知しておりますが……最後でございますので……本当に、本当に寂しくなります」
誰もが涙目になりながら、ルルへの深い敬意と別れの惜しさを口にする。
「他種族である私への怖さもあるでしょうに、声をかけてくれてありがとう。ご家族で食べてくださいね」
ルルは一人ひとりに言葉をかけ、センベイを手渡していった。
高位貴族の二家を除き、クラスの全員が挨拶を終えたところで、不意にルルの手首にいたネネが静かに呟いた。
「斑豹族と犀族だね。全く……報告!」
ネネは冷徹にその二家の動向を確認すると、即座に主魔鳥便を放った。




