27 南大陸カーナリアン王国 竜神様の愛し子
ラルフとヴァリアードは顔を見合わせ、はっとしたように表情を改めた。
先に口を開いたのはラルフだった。
「ルノア、福ちゃん。すまなかった。私たち二人とも、冷静さを失っていたね」
ラルフは二人に向かって、素直に頭を下げた。
「福ちゃんを家族として大切にすると言っておきながら、あんな態度を取ってしまってはいけなかった。
これからのことは、私とヴァリー様でしっかり話し合うよ。
ルノアは急がなくていい。ゆっくり来てくれ」
「分かりました」
続いて、ヴァリアードも口を開いた。
「ルノア、福。私もすまなかったな。少し興奮しすぎていた」
そう言ってから、ラルフを見る。
「これからは、女の子の部屋にノックもせず入るようなことはしない。
ちゃんと部屋の前まで転移する。それでいいな、ラルフ?」
「はい。そうしてください」
「それなら、執務室にルノアと一緒に食べたかった茶菓子を用意しておこう。
あとで一緒にお茶をしよう」
「分かりました」
ルノアは二人を見上げると、静かに続けた。
「お父様に言われた通りにしてくださいね」
「もちろんだ」
「私が伯父様にされたことを、もし私が他の誰かにしてしまったら、その人も嫌な気持ちになると思います」
ルノアはヴァリアードをまっすぐ見つめた。
「だから伯父様も、私の、礼儀正しい人のお手本になってください」
「……ああ。分かった」
ヴァリアードは苦笑しながら頷いた。
「伯父様。白ちゃんを大事にしてくださいね。
よろしくお願いします」
「分かったよ、ルノア」
「気をつける」
二人はそう答えると、今度こそ静かに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
すると福ちゃんは、すっかり機嫌を直したように敷物の上へごろんと横になった。
「……あれ?」
ルノアは首を傾げる。
「フクロウって、ごろんってするのかな?」
福ちゃんは気にする様子もなく、気持ちよさそうに目を閉じている。
「まあ、可愛いからいいか」
ルノアは笑いながら、福ちゃんの羽根の根元から何度も優しくブラッシングを始めた。
福は大きな背中をルノアに預け、気持ちよさそうに目を閉じる。
そして、ルノアには聞こえない念話を竜神へ送った。
『竜神様。ルノアが竜神様の愛し子であることは、ちゃんとお父様とヴァリーのやつに伝えたほうがいい』
福は、さらに続ける。
『ルノアは、自分の力をちゃんと理解している。だから、教会に守ってもらう必要はない』
そして、強い決意を込めて言った。
『福がもっと成長して、ルノアを守る!』
福は、もともとルノアの魔力から生まれ、ルノアから名前をもらった存在だった。
今では、ただの使役ではない。
ルノアにとって大切な家族であり、守護獣でもある。
だからこそ福は、これからルノアから魔力を分けてもらいながら、この世界のことを正しく学んでいこうと決めていた。
そして、自分とルノアを守れるように、もっと強くなる。
それが、福の新しい決意だった。
――カーナリアン王国。
ルノアが暮らすこの国は、四大陸の一つである南大陸に位置している。
そして、世界の中央に浮かぶ竜皇国の天空都市から、最も近い国でもあった。
カーナリアン王国では、古くから竜神信仰が根付いている。
ほとんどの人々が竜神を信仰しており、昔から竜がこの地へ飛来することも多かった。
竜人と『運命の番』となり、共に暮らす人々も少なくない。
そのため、カーナリアンの人々にとって、竜や竜人は特別遠い存在ではなかった。
竜人たちにとっても、カーナリアン王国周辺は暮らしやすい土地だった。
温暖な気候に加え、すぐ近くには火山がある。
その先には、一年を通して白雪に覆われた高山が広がっていた。
人族にとっては厳しい環境となる高山も、竜や竜人にとっては快適な場所だった。
もちろん、人族が自由に立ち入れるわけではない。
冒険者が薬草や魔獣の素材を求めて山へ入る際には、明確なランク制限が設けられている。
必ず許可を得なければならない。
竜や竜人の生活を必要以上に邪魔せず、人族も決められた約束を守る。
互いに過干渉せず、それぞれの暮らしを尊重する。
そんな距離感を保つことで、カーナリアン王国の人族と、この地を気に入って暮らす竜人や竜は、古くから良好な関係を築いていた。




