26 大事にしたいもの
福ちゃんが、不機嫌そうに鳴いた。
「グーグーフッフッフ! カチカチカチカチ!」
羽根を大きく膨らませ、嘴まで激しく鳴らしている。
「ルノア、魔力減りすぎ! 危険! 福、許さないよ! 二人、倒す! 福はルノア守る!」
「大丈夫だよ、福ちゃん」
私は苦笑しながら、膨らんだ羽根をゆっくり撫でた。
「心配してくれてありがとう。試してみなければ分からなかったことだから、もう大丈夫だよ」
福ちゃんはまだ納得していないらしい。
それでも私の手に頭を押しつけると、ようやく嘴を鳴らすのをやめた。
私はそのまま福ちゃんを撫でながら、お父様とヴァリー伯父様を見る。
「お父様。伯父様」
「どうした?」
「お二人で、一度ちゃんと話してください」
ヴァリー伯父様が少し驚いた顔をする。
「……俺たちが?」
「はい」
私は頷いた。
「福ちゃんとの時間を邪魔したのは、伯父様ですから」
「うっ……」
伯父様が言葉に詰まる。
私は少しだけ笑った。
「私は、もう少し福ちゃんと一緒にいます。その間に、お二人でこれからどうするのがいいのか話してください」
そして、二人を見上げる。
「決めたら、私にも教えてください」
父はしばらく黙っていた。
私も、少し考える。
今日、私は自分の知らなかったことをたくさん知った。
魔力の色。
魔空間。
無詠唱。
そして、魔石。
どれも、今まで自分では意識したことのなかったものだった。
だからこそ、今すぐ答えを出すことはできない。
「……私、まだ知らないことがたくさんあります」
二人が黙って私を見る。
「今日だって、自分の魔力について初めて知ったことがいっぱいありました」
福ちゃんの頭を撫でる。
「だから、今すぐ『これをする』って決めるのは、少し怖いです」
私は魔石を手のひらに乗せた。
小さな石が、淡い光を返す。
「これが誰かの役に立つなら、使ってほしいと思います」
けれど、その先にあることまでは分からない。
「でも……私がこれを作れるからって、ずっと作らなきゃいけないのか。作るために、今の生活を全部変えなきゃいけないのか」
そこで言葉が止まった。
うまく説明できない。
ただ、一つだけ分かっていることがある。
「それは、まだ決めたくありません」
父の表情が変わった。
私は続ける。
「助けられる人がいるなら、助けたいです」
「でも、私が無理をして倒れてしまったら……福ちゃんも悲しむし、お父様も伯父様も困りますよね」
福ちゃんが、
「グー」
と小さく鳴いた。
私は少し笑った。
「だから、まずは自分ができることを知りたいです。知らないことを勉強して、それから考えたい」
魔力をどう扱うのか。
魔石は何に使えるのか。
魔道具にしたらどうなるのか。
私の力が、どこまで人の役に立てるのか。
「それを知ってから、自分で決めたいです」
私は二人を見上げた。
「誰かに『こうしたほうがいい』と言われたからじゃなくて……私自身が考えて、決められるようになりたいです」
父は何も言わなかった。
伯父様も、黙って私を見ている。
「だから今は、学院で勉強して、福ちゃんと過ごして、お父様と一緒にゆっくり暮らしたいです」
それは、わがままなのかもしれない。
けれど、今の私にできることは、それくらいしかない。
「それでも、いつか私にできることが分かったら……そのときは、ちゃんと考えます」
私は二人に尋ねた。
「お父様と伯父様は……どうしたいですか?」
「私の力をどうするかじゃなくて」
少しだけ間を置く。
「私と、これからどう暮らしていきたいですか?」
その問いに、父と伯父は顔を見合わせた。
今度は、二人が答える番だった。




