25 聖女なの??減らないタスワンズ湖
「ああ、ルノア。ありがとう。胃も、目の奥も、頭も、歯の痛みも消えた。体が軽いし……えっ!? なんで古傷の膝の痛みまで消えてるんだ? それに、ものすごくよく見える。ラルフ、お前も握ってみろ」
「……ああ。すごいな。肩が痛くて上がらなかったのに、肩が回る。痛みもない。腰の重さもまったく感じない。えええぇ……なんでこんなによく見えるんだ?」
ラルフが驚いたように目を瞬かせる。
「ヴァリー、お前……なんか若返ってないか?」
「ラルフ、お前もだよ」
ヴァリー伯父様は、私たちをじっと見つめた。
「一瞬、翠色の光が全身を膜みたいに覆ったんだ。そのあと赤く光ったところが、痛みや悪い部分だったんだろうな。赤色が消えて翠色になり、最後には光そのものが消えた。……若返りまで起きてる。これはかなりまずいぞ。どうするんだ……」
そして、ヴァリー伯父様が私を見る。
「ルノア。いったい、どんな思いを込めたのか聞いてもいいか?」
「はい。小さい頃、庭師のおじいちゃんが、頭の中に悪い肉の塊ができて、お空に帰ったと聞いたことがあって……」
私は少し考えてから答えた。
「だから、体の中にある悪い肉の塊をなくすことと、痛いところを全部探して治すことを考えました」
もちろん、少し誤魔化している。
二人とも、途端に眉間に皺を寄せた。
「……聖女だな」
「え?」
「病気を治すことができる人は、みんな聖女と呼ばれる。ルノア、お前……聖女になっちゃったけど、どうする?」
ヴァリー伯父様が頭を抱える。
「それに、さっきからものすごく冷静だけど……なんで驚いてないんだ?」
「ええ……無理です」
私は即答した。
「最低限の奉仕の精神はありますけど、効果を低くして複製して、量産したらどうですか?」
「……」
「偽物の魔石を使った魔道具を量産する話をしていましたよね? あれ? 違いましたか?」
二人が黙って私を見る。
「それに、お母様の絵に『体の中を透明にできたら』って書いてあったので……透明じゃない部分が病気の元なのかなって。だから、色を変えて探せるようにしたらいいんじゃないかと思って応用したんですけど……まずかったんですね」
「まずいなんてもんじゃない……」
「あと、冷静というより……貴族は、あまり表情を変えたら駄目ですよね?」
「いや、今その話をしてるんじゃない」
ラルフが疲れたように答える。
私は少し首を傾げた。
「でも、さっきヴァリー伯父様も魔空間から魔力を動かせましたよね?」
「あれは……」
「もともと伯父様が『魔空間にタスワンズ湖を作って、水の流れを見たい』って言ったんですよね。伯父様もイメージするだけで、無詠唱で水を出せましたし」
私は二人を見た。
「だったら、皆さんもできるようになるんじゃないですか? 今までやらなかっただけだと思います」
「いや、まず魔力がないから無理だな……」
ヴァリー伯父様が、疲れ切った声で答えた。
そして、私の手にある魔石を見て、また驚いた顔をする。
「なっ……ルノア。なんでこの魔石、二つとも真ん中に穴が開いてるんだ?」
「え? ああ、それですか?」
ヴァリー伯父様が魔石を覗き込む。
「この穴……もしかして、自動調節機能までついてるのか? なんだこれ?」
「ヴァリー、分かるか?」
ラルフも魔石を覗き込む。
「ルノア……何をしたんだ?」
「腕輪とか首飾りとか、何に使うのかよく分からなかったので、紐を通せばいいかなって。だから穴を開けました」
私は魔石を指差した。
「違う形にもできますよ。取れたらなくすのも嫌だったので、外れないように大きさも自動調節するようにしました」
そして、ふと父を見る。
「お父様の首飾りも、紐を通して作られているんじゃないんですか?」
「いや、違うよ。あれはくっつけてあるだけだ。復元するときに、自動調節するようにはしてあるけどね。同じ魔力の石だから、まとめやすいんだ」
父が苦笑する。
「ルノア……違う形の石は、まだ出さないでね。お願いだから。これ以上、問題を増やさないでほしい」
「はい」
私は素直に頷いた。
すると、ヴァリー伯父様が何かを思いついたように言った。
「ルノア。今、この世界にある魔石は丸い形しかないんだ」
「丸だけなんですか?」
「ああ。だから、丸をイメージして、その中に魔力を入れるだけでいい。やってごらん」
「はい。簡単だったんですね」
私は卓球玉くらいの大きさをイメージして、魔力を込めた。
すると、手の中に透明な丸い魔石が現れた。
「…………」
二人が固まる。
「簡単じゃないからね?」
ヴァリー伯父様が、ものすごく疲れた顔をした。
「はい。これは駄目。大きすぎる。透明度も高すぎる。やり直し」
「そうなんですか?」
「もっと力を抜いて! 『丸』って一言だけ言って、そのまま止めてみて。もっと小さく。軽くだよ、軽く! 力を入れるな!」
「分かりました」
私は小さく息を吸う。
「丸!」
「ああっ! もう! 最後の『!』はいらない!」
「……丸」
「そう、それでいい」
手の中に、今度は小さな魔石が現れた。
「これで五S……いや、五秒くらいだよ」
ヴァリー伯父様が呆然としながら呟く。
「ルノア、何個くらい作れそう? 自分の魔力が減っているのも分かるだろう?」
「はい」
「じゃあ、やってみよう」
「丸」「丸」「丸」
「丸」「丸」「丸」
「丸」「丸」「丸」
九個目の魔石が完成した。
私は自分の魔力を確認する。
けれど――。
「……あれ?」
タスワンズ湖の魔力が、ほとんど減っていない。
「どうしようかな……?」
ヴァリー伯父様が慌てて手を上げた。
「ストップ!」
「はい?」
「ねっ、正直に言いなさい。減ってる? タスワンズ湖の魔力」
「減ってないです」
「…………」
ヴァリー伯父様は、しばらく無言で私を見つめた。
そして――。
「あああああ……どうするよぉ……。まずいよぉ……」
頭を抱えながら、ラルフを見る。
「ラルフ……何とか言ってくれ……」




