264 隠密の完敗
愕然とする隠密を余所に、マクアリール騎士団の騎士は爽やかな笑顔のまま言葉を続けた。
「私たちと皆さんは昼食休憩の後、午後から竜人の皆様の練習にお付き合いする予定です。……確か、『包囲の盾』を守る結界訓練と聞いております。」
自分たちを圧倒した公爵家の五軍すら、竜皇国の竜人たちの前では結界を張る補助に過ぎない。
その圧倒的な実力差と世界の広さを突きつけられた。
午後からの結界訓練も隠密全員が魔力切れ寸前を、癒し手に自動移転されるを繰り返した。
竜人の放つ圧倒的な魔力を受け止めているマクアリール公爵家騎士団と指示する団長とカーナリアン王国の閉鎖された前魔塔の長ヴァリアード様を遠くから見た。
これだけ離れて結界を張っていても、その超人的な魔力は隠密全員の頭上から重く押さえつけてくる。死の恐怖と畏怖の震えを抑えることができなかった。上には上がいたのだ。
「私達ではあの場には立てないから結界の補助なのだな……その補助さえも役にたてる時間も少ない。
癒し手を必要としているのは王家の隠密だけだ……。」
古参の隠密たちはさらなる衝撃に打ち震えるのだった。
二週間の共同演習では、一度も箱を奪取ことはできなかった。ただ一度、箱を触る事はできた。
「良かったな。触れたな。だがな……出させるわけにはいかないんだ。また来てくれ。一緒に強くなろう。」
そういって一撃で倒された。
その現実を胸に全員が帰城した。
死線を潜り抜けた者特有の凄絶な気配を纏った隠密たちは、傲慢さは消え失せ、瞳の奥には鋭い光が宿っていた。
謁見室で国王様に古参の隠密は深く頭を垂れ、震える声で報告を始めた。
「……我が国の誇る隠密魔術は、すでに過去の遺物でございました。マクアリール公爵家においては、下位部隊である『五軍』にすら一撃で看破され、その先には常識を遥かに超越した竜人の方々の世界が広がっておりました。
我らはまさに井の中の蛙。世界の広さと、己の矮小さを骨の髄まで思い知らされた次第にございます」
頭を深く床に擦りつけ、隠密の代表が震える声で言葉を紡ぐ。
「誠に、誠に申し訳ございませんでした。いかなる処罰も甘んじて受け入れます。……しかし、我らはこのままでは終わりたくありませぬ。どうか、我ら古参の五名、不覚を取った五名、そして二重間者を担当していた一名の長期離脱をお許しいただき、マクアリール公爵家騎士団の最低位『六軍』へ出向させてはいただけないでしょうか。
最底位から這い上がり、必ずや真の王家の隠密となって戻り、再び王族の皆様をお守りしてみせます」
その報告は、王家の最高戦力の一角が、公爵家の底辺に完敗したという残酷な事実。静まり返る室内に
「我が国は、いつの間にか時代に取り残されていたというのか……。」
ロバート国王は深く息を吐き、自らの無知を、そして国全体の弛緩を猛省した。
「これより、我が国はすべての慢心を捨てる。国全体の守りを根底から鍛え直すしかない!」
ロバート国王の強い決断により、国家の舵は大きく切られた。
まずは教育先進国を目指した学問の振興。
そして最新魔術の技術取得の推奨。
さらに、国の宝である技術を守るため、技術者たちの安全確保と賃金の抜本的な見直しを行い、過去まで遡り支払いをし、破格の高額給与を保証した。
そしてすべてにおいて、常識を塗り替える最新の魔術体系の導入が進められた。
公爵家や外部から貪欲に最新の知見を取り入れ、旧態依然とした古い魔術を一新していく。
隠密たちは、今やその血の滲むような改革の先頭に立っていた。変革の波は彼らだけに留まらない。
近衛騎士団や王立騎士団、さらには国境を守る警備兵や、自領を守る自警団を持つ地方の貴族家に至るまで、全ての貴族に最新の防衛技術と戦術を瞬く間に浸透させていった。
王宮が主導するこの貪欲な大改革は、国全体の防衛力を爆発的に高め、新たな歩みを力強く進み始めたのだった。




