262 定期合同演習 決定
ラルフがロバート国王に言った。
「確定というよりも二重間者で情報を得ているのか?報酬の高い他国に傾きつつある……でしょうかね。
魔法契約書をよく読んでいないことが分かります。
王が変わっても、カーナリアン王国との契約だった者であればそのまま隠密も魔法契約は継続です。
ただ先王は閉鎖された前魔塔の長ヴァリアード様に隠密業務も丸投げでしたのでね。隠密は殆ど仕事をしておらず、不正にも関わっていなかったので今も隠密としているわけです。
他国から恐れられていたのはヴァリアード様で、その当時の隠密ではありません。
現在も、主に実働している隠密は殆どがハーマイル公爵家の隠密ですよね?
『ここにいる隠密達よ。間者の件時期が来るまで話すでないぞ。全員例外なくだ。口封じ!』
……簡単なのですよ。」
「うっ……。」少し離れた場所からごく僅かな呟きが聞こえた気がした。
「あの…ここ結界……魔力封じありましたよね?なぜ?」ナイドが驚いた顔をしていた。
「あぁ……。魔術を使った者より私の魔術が新しく魔力も高いのでね。無意味ですよ。だから…少し鍛え直しと魔力増大と魔術技術の見直しが必要です。
新しい魔術を知らないなど恐ろしい。古い魔術に満足していては、自分たちが取り残されていることにも気がついてない。
今竜皇国の若い三兄弟がおりますからね。我が公爵家騎士団は皆魔力増大の機会をいただき、ありがたいと三兄弟にお礼申し上げていましたよ。」
(いやいや……。絶対に言ってないよね。……ないないない…。)全員が心の中で反論した。
「おや、背に腹は代えられないでしょう?職人が誘拐され、国の宝である魔道具の技術が簡単に盗まれてからでは遅いのです。まっ、簡単に複写はできないようですが……。
ともかく、撒かれたと笑っているような隠密は仕事をしていないのと同じです。恥ずかしいと危機感を持つ本物の隠密になってもらわねば……。
それとも、国王様。私のせいでまた『熟睡できない夜』を増やしたいのですか?」
ラルフの目は、全く笑っていなかった。
その無言の圧力に、ロバート国王はついに諦めたように深い、深い溜息を吐き出した。
「……分かった。マラド、すぐに隠密の統括に連絡を入れろ。選りすぐりの半分を、明日一番でマクアリール公爵家の演習場へ向かわせろ。撒かれた隠密の全員を先に行かせ挽回できたら処罰なしと伝えなさい。
ただし、ラルフ殿。どうか再起不能だけは……マクアリール公爵家の騎士団長殿や他の団員の皆様にも、よろしく伝えておいてくれ。頼むぞ。老体もいるからな…昔から世話になった我の大事な隠密なんだ。」
「ええ、もちろんですよ。大丈夫です。公爵家には優秀な癒し手が多数おりますから……。無限に復活出来ますからね。安心してお任せ下さい。五体満足で、一回りも二回りも強く貪欲に学ぶ精鋭隠密にしてお返しいたします。これからは半年に一度、合同演習しましょうね。」
こうして、王宮の隠密と公爵家の騎士団との「合同演習」が正式に決定した。
その後「世界全言語翻訳魔道具」とその対応問題集の正式な契約に移った。
ラルフは満足げに魔法契約書を、法務ギルドの公証人に手渡した。
同時に、空間収納の魔空間から重みのある大きな金貨の袋を十袋ほどを取り出し、机の上に静かに置く。
続いて入室してきたのは、税務ギルドの査定官たちだ。
法務ギルドの職員が契約書を精査し、税務の書類と合わせて、これがすべて
「ハーマイル公爵家の商会との正式かつ適法な取引」であると承認していく。
国家の金蔵を管理する財務省の最高責任者もその場に立ち会い、厳格な手続きが次々と進められていった。
やがて、すべての承認印が押された完璧な魔法契約書と公式書類が発行され、ラルフの手に渡る。
「これでお互いに一安心ですね。皆様、お忙しいところご苦労様でした」
手続きを終え、ラルフは至極上機嫌な様子で、軽やかな足取りのまま執務室を退室していった。




