261 カーナリアン王国の隠密
ラルフは皆の前で魔空間から厚い書類を取り出した。
「こちらは、最近怪しい動きを見せている商会と、外国人らを長期滞在させて不審な動きを見せているサントス殿の侯爵家です。
どうやら陛下の即位に不満を募らせたようです。」
本来、このカーナリアン王国は、三男二女の王位継承権を持つ者がいた。
最も優秀であった長女が王位を継ぐはずだった。
しかし、彼女は隣国ヨーリアン帝国の帝王の番で嫁ぎ、継承権を放棄した。
代わりに即位した長男は無能で、彼を宰相として支えたのが次男の跡を継いだ息子のラルフであった。
その後、娘ルノアが竜神の愛し子となったこともあり信頼する次女の息子ロバートを新たな国王に据えた。
王位継承権の順番であればラルフの次が三男の長男サントスであったが……。
サントスだけ、学院を卒院しておらずその理由で継承権の順位を下げ国王になることはできなかった。
書類から目を離したラルフは、困ったように首を傾げた。
「……ところで国王様。以前、そちらがお付けになった王家の隠密が、撒かれましたね?
よろしければ、その隠密たちをマクアリール公爵家の騎士団へお預けください。鍛え直させてもよろしいですか? このままでは私が心配で、夜も熟睡できませんので……」
「……!隠密が撒かれた、だと!? 報告がまだ届いていないぞ!」
ロバート国王の目が細くなり、眉間に深い皺が寄った。血の気がすっと引いていく。
その隣では、ハルド王太子がすでに自身の胃のあたりを押さえていた。
「ラ、ラルフ殿……。そのような国家の安全保障に関わる重大な致命傷を、センベイお持ちしました位の軽い調子で差し出さないでいただきたい……」
「ハルド兄上、しっかりしてください! ほら、ラルフ殿が持ってきてくれた胃に優しいお茶を!」
サラが慌てて温かい茶を注ぎ、机にそっと置いた。
ハルドはそれを苦悶の表情で飲み干すと、恨めしげな視線をラルフへと向けた。
「我が国の隠密といえば、他国からも恐れられる精鋭の集団だぞ。それを『撒かれた』などと……。一体どこのどいつがそんな真似を……」
「他国から送り込まれた手練れか、あるいは今の平和に慣れすぎて隠密たちの腕が鈍っての怠惰か、どちらかですね。
そんな恥ずかしい隠密だからこそ、私の提案です。
王家の隠密全員を、マクアリール公爵家の騎士団へ二週間交代で預けてください。
間者もいますので……。愛国心を取り戻して差し上げましょう。彼らの慢心を根こそぎ、文字通り完璧に、緊張感を持って鍛え直しますから。」
いい笑顔のラルフだった。
「えええええ……。間者いるの?」国王様の声が裏返った。




