260 全知の教育先進国を目指す
ラルフが全員の瞳を見ながら問いかけた。
「我が国におけるヨーリアン帝国の魔術学院への合格率が、ヨーリアン帝国に次いで世界第二位なのはご存じでしたよね?
合格する為の一般の方の、市民学び舎からも毎年競うように合格者が出ております。
一番の壁はやはり南大陸語でございます。ヨーリアン学院の共通語は竜皇国語と南大陸語ですから……。
ヨーリアンの魔術学院へ行く最短の道は
『まずはカーナリアンで学べ!』となれば……。
さすがは『全知の教育先進国』最も言葉が通じる国だ!となります。
そこまで見据えておられるナイド外相は、本当に素晴らしい。
それで、残りの二百台はどのくらいで用意できますか?
来年度の入学時期にはすべて揃えたいのです。
防犯登録や紛失対策の魔法は、前回同様にかかっていますよね?」
ナイド外相は呆れたように両手を上げた。
「いやいやいや……今仰ったこと、すべて公爵様の立案ですよね? 私の仕事をこれ以上増やさないでください」
「おや。前回の税金の抜け道対策で、国庫は随分と潤ったはずですよ。
より良い国にしていきましょうね。皆様、どうかよろしくお願いします。民をお導きください」
ラルフはニッコリと、極上の笑顔を浮かべた。
「はぁ……。分かりました。ハーマイル公爵領の商会から、まずは今日中に三百台を先にお送りいたします」
「いえ、親しき仲にも魔法契約書です。こちらを確認してください。……少しまけてもらえますか?
もちろん正当な額で構いません。……なるほど、故障時の保証も流石ですね、しっかりと付いている。
そこで皆様、一つ提案が良いですか?」
ラルフは向き直った。
「無料修理は絶対に駄目です。職人の一日分の給与に相当する、高い技術料は必ず請求しなければいけません。それから、故意による故障は全額実費負担です。
五年以上使用もそれは故障ではありません。劣化する部品もありますから……。
高い買い物をしたからと何でも無料で受け付けていたら、技術者の負担が増えるだけです。
賃金を払う商会も負担が増え次の新商品を作る資金が足りなくなります」
ラルフの言葉は、冷徹なまでに現実的だった。
「何より重要なのは、職人の生活と安全と技術の保証です。彼らの技術と守秘義務の魔法契約書は交わしていますね? していなければ、技術をすぐに盗まれて模造品を作られます。
恐ろしいことは職人そのものの誘拐すら起こり得る。
カーナリアン王国の魔術学園の学園長様も先生方も、かつて誘拐未遂に遭われました。
他国は常に、我が国の有能な人材を拉致する機会を狙っているのです。
命、賃金、生活、技術、そして情報を守らなければ駄目です。良いですね?」
ラルフはナイドに再び視線を戻し、羊皮紙を差し出した。
「まずは、こちらの魔法契約書を。それから、この魔道具を今後も約束通り他国へ売らないでください。
これは世界に二つとない画期的な魔道具です。
世界魔法会議で採用されていること自体が素晴らしい実績なのですからね。
ナイド殿。値段を下げることなく、カーナリアン王国の宝として発展させてください。
今後も今まで通り『国外利用不可の特約魔法』を付与し、我が国特有の資産技術として守っていくようお願いします」
ナイドは深く息を吐き、真摯に頷いた。
「分かりました。貴重なご指摘、本当にありがとうございます。
我が国の未来を見据えて、学生の時から私を支援し応援してくださっていたのですね」
「ええ。才能ある若者の発想が、夢が、人格が、本当に素晴らしかった。実は王太子殿下と宰相様の魔道具も同じ理由です。
時間がかかっても、仕事と自分の時間を切り分けても良いので……。
長い人生の時間を大切になさって下さいませ。
当時、本当にハーマイル公爵様が羨ましかったのですよ。立案を邪魔されるたびに……。
倍返しのお仕事をあげたのに……難なくこなしていましたからね……本当に優秀な方は……。
ただ領民が生活ができなくては、自分たちの足元から崩れてしまいますから。
理想と生活を切り離しお考え下さい。
賃金はその高い技術の対価でなければなりません。
不満は溜まりやすく、目の前に大金を積まれれば……欲望が目を覚ます。くれぐれもお気をつけください。……さて、本題はここからです」




